ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第7回 11月26日 前田 裕子

水洗トイレ ~水システムの中の排泄設備~

「都市」という生活空間が成立すると、人間の排泄は、自然に任せることでは解決しない問題をはらむようになる。近・現代の世界において普及したその問題の解決法が、給排水システムとそこに組み込まれた水洗トイレという設備(ファシリティ)なのだ。

本講義では、1)ヨーロッパにおける水洗トイレ誕生と普及の歴史、2)近代移行期の日本の都市における屎尿処理システムの特性、3)在来産業と工業化の関係性、といった諸側面から、日本における水洗トイレの開発と普及の経緯を検証し、トイレの水洗化がわれわれの生活その他にもたらした変化を考えたい。

コメント課題
トイレの水洗化によって日本人の何が変わったか考えてみて下さい。
講師紹介

前田 裕子
神戸大学大学院経済学研究科准教授。 愛知県生まれ。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、民間シンク・タンク、NGO、NPO勤務を経て、神戸大学大学院国際協力研究科博士課程修了。博士(学術)。神戸大学大学院経済学研究科では留学生向けの日本経済論を担当。技術者をキーワードとした日本の産業史を研究テーマとしている。
参考文献
  • 阿木香/荒俣宏/遠州敦子/谷直樹/林丈二/舟形真理子/本間都/伊奈英次(撮影)(1990)『日本・トイレ博物誌』株式会社INAX
  • 今井宏(1998)『パイプづくりの歴史』アグネ技術センター
  • 海野弘/新見隆/リシュカ・フリッツ/伊奈英次(撮影)(1990)『ヨーロッパ・トイレ博物誌』株式会社INAX
  • 岡田誠之編著(2000)『新・水とごみの環境問題 -環境工学入門編』(第2版)TOTO出版
  • 金塚貞文(1990)『人工身体論 -あるいは糞をひらない身体の考察』青弓社
  • 紀谷文樹/中村良夫/石川忠晴編著(1992)『都市をめぐる水の話』井上書院
  • ゲラン,ロジェ-アンリ著 大矢タカヤス訳(1987)『トイレの文化史』筑摩書房
  • ホイ,スーエレン著 椎名美智訳(1999)『清潔文化の誕生』紀伊國屋書店
  • 山田幸一監修 谷直樹/遠州敦子著(1986)『便所のはなし』鹿島出版会
  • Blair, Munroe(2000)Ceramic Water Closets, Shire Publications Ltd, Buckinghamshire
  • 前田裕子(2008)『水洗トイレの産業史 -20世紀日本の見えざるイノベーション』名古屋大学出版会(興味のある方は,巻末参考文献リストを参照してください)
授業風景

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コメント(最新2件 / 10)

せし    reply

洋式トイレを日本に輸入するときに日本人に合わなかったというのは、なるほどと思った。
様式の導入で自分の排泄物を見なくなったことで排泄の不快感が大幅に減ったかと。

あつし    reply

水洗トイレの普及によって、排泄物がよりただの不要物という認識が深まったと思う。それは、肥料として使っていた時代とは程遠いにしても、普及以前は排泄物がまだ身近に存在していたので、水洗トイレによって、排泄物がお手洗いの時だけのものになり下がったからだと考えられるから。

なな    reply

水洗トイレが日本人に馴染むまでのお話が非常に興味深かったです。
水洗トイレの導入により、日本人の排泄への意識が、より明るく衛生的に、と変化していったと思います。

てつ    reply

水洗トイレの導入により排泄物に対する認識が大きく変わったと思う。昔は、排泄物はお金を出して買うもの。それが今では不衛生なものとして見ないように、臭わないようにという方向に進んでいる。排泄物処理のプロセスを知らないままただ便利なものとして水洗トイレを使用し、全てを外部に委託しているせいで排泄物は身体から汚ないものとして切り捨ててしまっている。しかし、かといって昔の方がいいというのは正しくないと思う。人が集まることにより、衛生面を考慮して排泄物物は適切に処理されねばならない。感染症のもとにもなるし、肥料としても化学肥料で代用できる。大切なのは、便利さをなにも知らないまま享受するのではなく、このようにトイレが発達するプロセスを知ることや、どのように処理されどのような環境負荷を与えているかを知っていることだと思った。

taro    reply

水洗トイレの普及により、トイレが汲み取り式の時よりスペースを取らなくなって省スペースの住宅が建てやすくなったと考えます。その結果大都市への人口集中が可能になり、一人一人の空間が狭くなっていったと思います。

post    reply

水洗トイレが排泄そのものの意識の変化に重要な役割を果たしたことは意外でした。設備としてのトイレを歴史的な流れとともに俯瞰できたので、非常に興味が深まりました。

きお    reply

私はボットン便所を利用したことがあるが、それと比較して水洗便所は臭くなく、見た目に汚さが無い。これによって、使用する人の排泄物を意識する時間が短くなると思う。そうすると、人間が臭いものを出すということが意識されなくなったり、忘れようとする傾向が強まるだろう。人間が自分の好きな部分だけ誇張し、嫌な部分は見えなくし、自分から離れているようにして忘れようとする傾向が強まると思う。

たこ    reply

きれいな便器を導入することで、トイレが快適空間になり、排泄の事実上の清潔感は増加したものの、人間にとっては逆に、残存する不潔さが際立つ結果となり、排泄に対する悪い印象が増幅されたと思われます。

かずき    reply

水洗トイレが排泄の意識を大きく変えたことに驚きました。最後におっしゃったように、様々な社会問題につなげて考えられる可能性も是非考えていきたいです。

うひろ    reply

便器の構造が変化するにつれて、人々の排泄に対する考え方も変化するという視点が興味深かった。洋式トイレは、シャワートイレの導入や温かい便座の導入などに伴いより快適な空間へと進化しており、今や一人の空間を求める人の逃避の対象となっている。(真偽は不明だが)トイレの個室の中で食事をする人間もいると言われるくらいである。そのため、かつては排泄物を処理するだけであったトイレの個室も、今や新しいなんらかの価値が付与されているという見方すらできるのではないだろうか。

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