中国の学生との共同フィールドワークを体験したい

学生による意見・感想 南京大学フィールドワーク研修【3月】2010年度

南京プログラム学生派遣レポート

■ 福島先生の授業・それに関連する討議について

 中国における障害という概念、障害者の扱いについてもっと伺えたら良かったかな、と思います。ディスカッションで伺えたら良かったかと思うのですが、出来ませんでした。

 福島先生の授業に関しては、1日目の授業の後だけ、南京大学の教室でディスカッションをしましたが、中国の方があまりお話しにならず、東大からの学生がもっぱら話していたような記憶が残っています。それもそれで良いのかもしれませんが、中国における障害者の社会的な位置づけ、学生の方々にとって障害とはいかなる概念なのか、といったことをもっとフランクに中国の学生の方にお話ししていただければ、また違う面白さがあっただろうと思います。

 そして、そうできなかった原因は、以下の私の発言にあったのかもしれない、と思っています。勿論、議論の方向は一人の発言で全て決まるものではないでしょうし、まだお会いして間も無かったこともあり、最初の討論だったので慣れないということもあったかとも思いますが、私がもっと黙っていた方が、中国の方々の発言を引き出すことが出来たかもしれません。

 私は冬学期に福島先生のゼミを受講していたのですが、その中心的なテーマは「メリトクラシーと障害」でした。「障害という概念の裏にはメリトクラシー、つまり能力で人を評価するという考え方があるよ」といったようなお話です。それを頭において討議していったらよいのではないでしょうか、と発言しました。

 もしかしたら、私は、そういうことを話し合いたい、という私自身の希望を前面に出しすぎてしまって、そのために中国の方の発言を減らしてしまったのかもしれません。その後の議論はその方向で進んだのですが、特に中国の院生の方々には興味を持って頂けなかったようでした。

 私が速くしゃべりすぎてしまって、日本語科の方々に、ご理解頂けなかったのかもしれません。私のどこかに中国は日本より遅れた国だ、という意識があり、それが発言や態度にも表れてしまったのかもしれません。中国の学生さんがお話したくない政治的な問題に触れるような言い方をしてしまったかもしれません。そうであったら、申し訳なかったと思います。

 必ずしも私の発言が害ばかり成したとは思いませんが、討議から何かを得ようと思ったら、敢えて「思うところを言わない」ことも大切なのかな、と思いました。

 このように、ちょっと失敗したかなと思った時もあった討議でしたが、最終的には東大の院生を中心とする方々がまとめて下さいました。

■ 清水先生の授業・それに関連する討議について

 ご紹介いただいた参考文献を読み、講義を拝聴し、それに関して討議することで、自分があまり触れて来なかった世界に触れることが出来たと思います。医療というものを相対的に捉える視点を持つ大きな契機を与えて頂けたことを、とりわけ嬉しく思います。

 前夜祭の後東大の学生の方々と夕食に行った料理店で、清水先生の授業に関してはどういう感じの討議をしようかと、少し話し合った結果、中国の方になるべく沢山話してもらおう、ということになりました。

 清水先生の授業の後は、2日間とも討議しました。

 1日目の授業の後は、大学の近くのカフェで2つのグループに分かれてディスカッションしました。中国の方々になるべく沢山話してもらおう、という当初の目的通りに進行したかどうか、また、自分が当初の目的通りの進行に協力できたか、というのは100%YESとは言い切れませんが、悪くないディスカッションだったと言えると、私は思います。講義で分かりにくかったことを他の方に伺ったり、日本および中国の学生の方々と色々お話出来たりして有益だったと思います。

 2日目の授業の後は、夕ご飯を食べるレストランに早目に行って、人数が増えてきたら途中で2つのグループに分かれて討議しました。前日と同様に、講義で分からなかったことを聞き合い、日本および中国の学生の方々と、色々お話出来て良かったです。

■ 討議全体について

 討議は、院生を中心とした東京大学の学生がディスカッションリーダーのような感じで進めることが多かったかなと思います。人数が多いのでグループを分けて討議しよう、となったこともあったので、全ての場合においてそうであったのか、までは分かりませんが。

 講義の分野に造詣が深い学生がいると、日本語科の院生の方々にとっても知的に面白い討議になるのではないかと思いました。その意味でも、BBSの「國吉先生、廣瀬先生Q&C」で出されている「その分野を専攻されている中国の学生さんもお呼びして議論したらどうか」というのは名案と思います。

■ 見学など

 大学構内で上演されていた劇を見る機会に恵まれました。二胡などの楽器の演奏や、役者さんの歌や踊り、衣装の美しさなどを楽しむことが出来ました。独特の美的感覚を感じたように思います。

 また、揚州に行って、何園、大明寺、痩西湖を、ガイドさんに案内して頂きました。中学や高校の時に美術の授業や修学旅行で、日本の伝統文化に触れる機会があったのですが、何園、大明寺では、日本の古い庭園や建築に表れるものとは若干異なる美的感覚を感じたように思います。痩西湖では、川辺で柳が風に吹かれているという、漢詩に出てくるような情景を見ることが出来ました。

 揚州に行った翌日には、南京大学の日本語科の方々が案内して下さって、午前中には全員で南京大虐殺の記念館に見学に行き、午後は、孫文のお墓などに行く組と、台城、つまり南京の城壁に行く組に分かれました。私は台城に行きました。台城の側には尼寺がありました。やはり日本のお寺より色彩が派手な感じがしました。台城の上からは玄武湖を望むことが出来ました。台城の上で黒と白の大きめの鳥がいて、あれは何という鳥ですか、と、日本語科の学生さんに伺ったら、日本で言う「かささぎ」だと分かりました。日本ではかささぎを身近に目にすることは無いので印象深かったです。

 南京の街を歩いてショッピングセンターのようなところにも行ってみました。街の喧噪を感じるのは面白かったです。店内では、精肉や魚介類の陳列の仕方が、日本の肉屋、魚屋とは違うなと思いました。日本では生きた魚を水槽に入れて売っている店は市中にはそんなにありません。

 他の学生の方々にくっついてマッサージにも初挑戦してみました。体がほぐれた感じがして、体調が良くなりました。

 清水先生の前夜祭の日はフリーだったので、同行の日本の学生の方々は、大学の近くの大きな本屋に行かれました。私は授業の前に参考文献を読んでしまいたかったので行かなかったのですが「学術書が沢山、他にも色々あって面白かった」と伺いましたので、南京に再び行った折には是非訪ねてみようと思います。

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教室にて中国人学生と

■ プログラム全体について

 私の内定先の認知行動科学分科は、端的に言うと人や動物の精神機構を考えよう、という学科です。内定生の私は、いわゆる心理学を中心に(脳科学も少し)勉強しています。特に、必ずしも自分がカウンセラーという仕事をすることで直接的に関わっていきたいとは思わないものの、間接的にでも臨床心理学に関わっていけたらと思っています。

 そういった自分の方向性との関係で、今回の講義内容、および海外に行って現地の学生の方々とお話してみるということに魅力を感じた反面、取り立てて中国に興味があると言う訳では無く、春休み中に読みたい心理学関連の本も沢山あったので、参加するか否か大いに迷いました。

 そこで石井先生に、LAPとしてはこのプログラムが学生にとって、大学にとって、社会にとって、いかなる意味を持つことを想定しているのかメールで伺ったところ、「学生にとっての意味は学生が自分で考えて見つけてほしい。大学としては、教養教育の質を高め、自ら考える学生を育てたいと思っている。社会への還元は、学生が育てば自ずと行われるはず」とのお答えを頂きました。

 また、以前から色々とお世話になっていた認知行動科学分科の先生に相談してみたところ「そのような形で人と接する機会を持つことはあなたにとって必ずプラスになるはず。ぜひ行ってらっしゃい」と勧められました。新入生だった頃フランス語を教えて下さった先生に相談に乗っていただく機会にも恵まれたのですが、その先生も「若い時に新たな環境に身を置いてみることは新たな視点を得る契機になり、自分の専門を勉強する上でも貴重」とアドバイスしてくださいました。

 参加を決めることにしたのは、先生がたのお言葉があったからだと、感謝と共に思います。

 南京大学の方々、先生がた、同行の方々のおかげで、南京では知的にエキサイティングな日々を過ごすことが出来ました。

 物理的な環境の違い、人の行動や考え方の違いに新鮮な印象を受けたと思います。交通事情や、食事や、振る舞い方、建築、広告、美的感覚など、日本では当たり前と思っていたことが、中国では当たり前ではない、そのこと自体が、自分が勉強していく上での新たな視点を与えてくれたと思います。

 東京大学より同行の先輩、同輩、後輩の方々とお話する機会にも恵まれました。皆様のお話を聞いているだけで勉強になり、かつ面白かったです。この機会に自分が普段触れていない分野のお話を聞けたこともとても良かったと思います。

 自分の今後の方向性という観点からも、今回の講義を聞き、それに関連する討議に参加する機会を頂けたことは、有意義だったと思います。

■ お礼とお詫び

 今回のプログラムでは、宿泊先は立派なホテルで、南京大学の方々は至れり尽くせりのおもてなしをしてくださり、本当に有り難く、また勿体無いことでありました。食事もご馳走で、その上日本語科の方々が、ほぼ毎日のように東大からの学生の食事に付き合って下さって、支払いをしてくださり、まだ学生の方々なのに悪いなと困惑してしまうばかりでした。お金の面だけでなく、日本語科の方々は、通訳して下さったり、現地を案内して下さったりと、多大な時間と労力を私たちの為に割いてくださいました。それぞれ色々とお忙しいでしょうし、負担だったのでは、と、正直心配です。

 お返しに、南京大学の学生の方々が日本にいらっしゃった折は、ご馳走して差し上げたいのは勿論のこと、他のことでも私に出来ることがあれば是非ともさせて頂きたいです。

 最後になりましたが、南京大学の方々、先生がた、東大よりの同行の学生の方々を始めとする皆様には、本当にお世話になりました。不勉強の私は、至らないことも多々あったと思います。そのことに関してはお詫び申し上げたいと思います。至らないことだらけの私がこのような形で勉強する機会を与えて頂けたことは、極めて有り難いことであったと思います。

 最後にもう一度、関係の皆様には、心よりお礼申し上げます。

(文科Ⅰ類 2年(第二グループ))

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