ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい
第2回 10月15日 山崎大
宇宙から河川の流れを測る
- 講師紹介
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- 山崎大
- 東京大学生産技術研究所の准教授で、専門はグローバル陸域水動態学。地球規模の河川流動モデル「CaMa-Flood」の主要開発者で、世界の地球システム研究や洪水リスク評価をリードしている。高精度な全級水系地形データの整備や衛星リモートセンシング、気候リスク情報研究にも貢献し、科学技術分野の基盤を築いてきました。これらの業績により、日本学術振興会 育志賞(2012年)、文部科学大臣表彰(2019・2021年)、AOGS Kamide Lecture Award(2020年)などを受賞しています。
- 授業風景
2025年度学術フロンティア第二回講義では、東京大学生産技術研究所准教授の山崎大先生をお迎えし、水文学の分野から「宇宙から河川を観測する最新研究」についてご講義いただいた。
水文学とは、地球上の水に関わるあらゆる現象を扱う科学である。地球のどこにどれほどの水がどのような形で存在し、どう変動しているのか。その変動がどのようなプロセスによって生じているのか、そしてそれをどこまでモニタリングし将来を予測できるのか。さらに水循環と人間活動の関わりなど、多様な研究テーマがふくまれている。山崎研究室はその中でも「陸域の水の動き」を専門としており、本講義ではとくに衛星観測を活用した研究についてご紹介いただいた。
水の流れは、多ければ洪水を、少なければ渇水を引き起こす。広域的に水の流れを把握することは災害の抑制や災害に強い社会づくりへのカギとなる。また、河川は海へと水を運ぶ過程で赤道の熱を高緯度へと輸送する役割も担っており、地球規模の気温調節の重要な要素にもなっている。地球規模の気候を議論する際、河川のデータは欠かせない要素なのである。
河川流量は「川の断面積×流速」で定義される。しかし現地での定常的な測定は難しく、世界各地の観測体制にも偏りがある。この課題を克服する手段として研究が進められているのが、JAXA・NASA・ESAなどが運用する地球観測衛星を活用した衛星リモートセンシングである。
とはいえ、宇宙から河川を測ることには二つの大きな困難がある。一つは、多くの河川が細く小さく、衛星画像では識別が難しい点である。これに対しては光学衛星を用い、物質ごとの反射特性の違いを利用して地表の被覆を推定するが、水に似た反射特性をもつ「水ではないもの」(氷・溶岩・山影・雲影など)が混在するため、誤判定を避けるためにアルゴリズムの細やかな改良と検証が重ねられてきた。もう一つは、衛星では水面下の情報が得られないという制約である。この問題には、衛星からレーダー真下に照射し、その反射時間から水面や地表の高さを推定する手法が用いられるが、従来は現地観測データを併用する必要があった。そこで、現地観測なしで衛星データのみから流量を推計するアルゴリズムが開発され、研究が進んでいる。
衛星画像を用いた水面分布の解析は当時競争が非常に激しい分野であると語られた。ある研究グループが8000枚の衛星画像から世界の水面マップを発表すると、数か月後には山崎研究室が34000枚を用いて河道と氾濫原を区別したマップを発表し、さらに翌年にはGoogleらが300万枚もの画像を用いた解析結果を示すなど、研究競争のスピード感の速さが印象的であった。
講義の最後で山崎先生は、この分野の難しさと同時に、その面白さについて語られた。衛星観測は地球規模で河川を俯瞰的に捉えられるため、気候変動の理解や広域災害予測といったグローバルな課題に貢献できるが、一方で衛星は表面しか観測できないという構造的制約も抱えている。それでも、地球上の水面や河川分布を描き出す研究では、アルゴリズムの改良と精密な検証作業によって大きな成果が得られ、さらに衛星のみから河川流量を推計するという挑戦にも光が差しつつある。これらはまさに過去10年で急速に発展してきた分野であり、山崎先生は「2020年代は河川研究の黄金時代である」と述べられ、「興味のある人はぜひ一緒に研究しましょう」というメッセージで講義は締めくくられた。
高度で専門的な内容でありながら、非専門の学生にもわかりやすく、水文学や衛星観測の研究が持つ魅力とロマンを存分に感じられる講義であった。講義の冒頭に山崎先生のご経歴や研究のモチベーションについてもお話があったが、その中で語られた「川ってきれいで面白いな」という先生の素朴な原点は、その後の膨大なデータ解析やアルゴリズムの改良といった精緻な研究活動と響き合い、自然科学への好奇心がいかに大きな学術的広がりを生むのかを強く印象づけた。研究の最前線に触れ、困難な解析課題に挑み続ける研究者の貪欲さや、国際的な研究競争のスピード感にも刺激を受け、学問に向き合うことの醍醐味を再認識する貴重な機会となった。
コメント(最新2件 / 8)
- 2025年10月16日 08:02 reply
講義では、現地での計測無しに、どのように衛星画像と衛星高度計の情報から世界中の河川の流量を推定できるのかをよく理解することができました。
しかしながら、理論上は正しくてもそれを世界中の河川に対して良い精度で実践することは難しいのだろうということは素人である私でも容易に想像がつきます。
そのため、この研究がより洗練され、今後ハザードマップや水害の予測などに応用されていくことを期待しています。
- 2025年10月16日 10:27 reply
日頃グーグルアースなどで気軽に見ることができる河川も人工衛星などの最先端技術を用いて撮影されており、その撮影のためにも様々な難しい点があると知ることができ、とても興味深かった。
- 2025年10月16日 23:36 reply
授業後に海洋研究とのつながりの話題が出たが、大きさの違いや変化の度合い、河川の色がそれぞれ違うので衛星画像から判別しにくいことなど、河川の方が海より把握することが困難なことが多いと感じた。
- 2025年10月18日 22:42 reply
河川の流量データを衛星から観測し、それを沿岸地域の農業や灌漑の実態と照らし合わせることができるという話について、理系的な手法を通じて社会や地域の構造を読み解くという人文地理学的な意義が感じられ、印象的で面白かった。
一方で、McFLIによる観測の前提となる「隣接断面における流量は等しい」という仮定は、河川の規模が小さくなるにつれその誤差が大きくなると考えられるため、長江のような大河の分析には有効だが、日本の河川のように小規模で流路が複雑なものに対しては流量を正確に把握することが難しいように思われる。防災対策には地球規模の計測に加えて、昔ながらの定点式流速計や超音波式流速計などのローカルなアプローチも併用することが有効だと思った。
- 2025年10月19日 19:31 reply
気候変動問題に関する研究、考察は、しばしば大気あるいは地球全体といった非常にマクロな視点で行われている印象だったが、河川という、地球規模で見れば比較的ミクロ(?)な視点で研究を進め、そこから地球全体の流れがわかるという事実には驚いた。河川を流れ海へ出た水は、その後蒸発し雲になる。雲の動きは気流つまり気圧に支配されていることからも河川の流れや流量の理解は大気の流れ、最終的には気候の理解につながるという視点は、個人的に新鮮なものであったが、合理的で納得のいくものでもあった。
- 2025年10月21日 17:48 reply
宇宙から地上の河川の流れを測るというのは何か途方もないすごいことのように思えたのですが、講義を聴いている中で、一つひとつ地道に障害を乗り越えて精度を高めてきた過程がよく分かり、非常に興味深かったです。それぞれの段階で提示された課題はどれも簡単には乗り越えがたいもので、お話を聴きながらどうやって克服するのだろうと少しドキドキしてもいたのですが、それらを様々なアプローチで解決していくのが面白かったです。時折世界との競争に関する話題が出てきましたが、そうした環境の中で自身の興味を追い求めるのが世界の最先端で研究する面白さなのかなあと思いました。天気予報に河川の洪水予想が加わる日を楽しみにしたいと思います。
- 2025年10月21日 21:56 reply
最先端の「水文学」についての貴重なご講義で大変勉強になった。まさしく文字通りの「流れ」というものを追い求めた末の非常に興味深い研究成果の裏に、非常に地道な努力が積み重なっていることを感じた。専門的な内容も含むはずにもかかわらずとてもわかりやすい講義で、研究という行為に通底する普遍的な理念に触れられたと感じる。
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河川の衛星観測について、衛星では直接観測できないものをマニング式で推計できるということに感銘を受けました。これからの河川研究では、衛星データやAI解析を活用し、流量や水質変化をリアルタイムで把握することで、災害予測や水資源管理の精度向上が期待されるのではないかと思いました。