ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

南京大学集中講義
(南京大学生対象)
2023年度「異物?」

2024.Feb.17

概要

生体には異物に対して激しく反応し、これを排除する働きがある。Covid-19に罹患したひとは誰でもこのことを体感しただろうし、そうでなくても身近にそうした実例を目の当たりにした人は多いに違いない。またウィルスの蔓延を前にして、小はマスクを着用し、大は国境を閉ざすといった仕方で、そうした異物の侵入を防ぐ行動が広く推奨され、そして受け入れられてきた。感染学的な場面に限って言うなら、そうした行動の実効性を否定することは難しいだろう。ただ問題は、われわれが数年にわたって刷り込まれてきたこの文字通り身体的なロジックを、われわれが異なった場面に無自覚に拡大適用し、あるいはわれわれ自身のひそかな傾向を肯う口実として使ってはいないかという点にある。自明に思われる生体と異物の関係にも、背後には自己と非自己を区別するための複雑な仕組みが存在する。ましてやこれを社会集団という水準で考えるとすれば、そこではむしろ異物が結果として析出されるような、同質性の形成こそがむしろ問題になる。異物であるような何かがあるというよりむしろ、異物を同定し、さらには作り出すメカニズムがあるのだ。そのため近代化といった大きな変化のなかでは、何が異物であるかが必ずしも自明ではなくなるということが起きる。加えて言えば、異物は必ずしも否定的であるばかりではない。とりわけ文化的な事象においては、異物が文化を停滞から引き出しその変容へと向かわせる、肯定的・積極的な役割を担うこともある。本講義ではこうした「異物」の様々な側面に、文理双方の教員が自らの専門分野から照明をあてることで、各々がそれらを手掛かりに、この概念について自身の見方を培うことを目指す。

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