ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第1回 03月01日 藤原 晴彦

昆虫の擬態と変態の生物学

2012年3月1日・3月2日

世界には100万種以 上の多様な昆虫がいるが、その多くは発生の過程で姿・形を大きく変える。このような「変容」はmetamorphosis(変態)と呼ばれるが、どのよう な分子機構によって成立しているのだろう?一方、個体発生という短期間の「変容」とは別に、昆虫種の多様性を生み出した極めて長期間の「変容」(進化)も 存在する。特に、他の動物に比べ小型で捕食されやすい昆虫は、色、形、行動などを他者に似せて、捕食者をだます戦略(擬態)を進化させた。この講義では、 昆虫の変態と擬態という全く異なる二つの「変容」を通して、昆虫の巧みな適応戦略の背景となっている分子機構を紹介したい。

講師紹介

藤原 晴彦
専門:分子生物学/適応進化学 1986年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了。理学博士。国立予防衛生研究所、ワシントン大学動物学部(シアトル)研究員、東京大学理学系研究 科生物科学専攻助教授などを経て、2004年より東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。昆虫をおもな研究対象とし、擬態と変態の分子機構、テロメアと 利己的遺伝子の進化などの解明に分子生物学的な切り口から取り組んでいる。
参考文献
  • 藤原晴彦:『似せてだます 擬態の不思議な世界』 DOJIN選書、化学同人(2007)/ISBN 978-4-7598-9
授業風景

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学生の声

たくさんの専門的なものは私のような素人にとっては理解し難いが、こういう研究方法あるいは考え方はとても面白かったと思う。自分の視野を広げてく れて大変勉強になった。特に印象深かったのは藤原晴彦先生の「昆虫の擬態と変態の生物学」という講義だった。昆虫のいわゆる変容を面白く説明してくれた。 子供の時の面白い話を思い出された。子供の時、木の小さい灰色の幹の真似をした小さい昆虫を見たことがある。その時はただおかしいと思ったが、先生の話を 聞いて初めて大自然の奇妙さを分かってきた。

(南京大学修士1年生の感想より抜粋)

今 回の講義を聞いて、一つ中心的な考えがあります。つまり、ある程度極端に言えば、「変容」は進化のために動物と植物が自己から選んだ行く道です。植物とい え動物といえ、地球で生まれたはじめの時から「変容」が設定されるわけではなくて、生まれてから自然環境の変化と応じて自己の変容を行います。昆虫を例に して見れば、変態と擬態があります。変態は成長段階によって身体が変わることです。これをさておき、擬態のことを考えてみると、それはまさに昆虫の知恵で す。昆虫の擬態には二種類があります。食べられない擬態と食べる擬態です。ベイツ擬態と隠蔽型擬態はそれぞれほかの動物と植物の葉に似ていて、逃れるため の擬態です。そして攻撃型擬態は食べ物を捕らえるための擬態です。たくさんの昆虫は常にこの二種類の擬態を同時に持っています。自分のニーズによってこの 二種類の擬態の中に自然に転換できます。つまり、変容というのは進化のためで、常に新たなものを生み出すことに導きます。

(南京大学修士1年生の感想より抜粋)

講師インタビュー

石井      では藤原先生、ご感想をお願いします。

藤原       行く前に戸惑ったのは、レベルをどこに設定したら良いか良くわからなかったのですが、主に文系の学生さんというのを知って、かなり下げるしかないなと思ったんですよ。専門用語はかなりたくさんあるし、恐らく日本人の学生でもあまり難しいことを言ってもわからないので。ひょっとしたら中学生でもわかるくらいの内容を今回は入れたので、そこは分かったと思います。印象としてはすごく真面目な学生さんが多いなぁというのが感想で。ただ自分の言ってるのがどのくらい通じているのかわからないのと、多分専門用語が通じていないかなというのが結構感じましたね。

石井       そうですね、ホワイトボードに日本語で書いてくださったのはすごく良かったと思います。

RIMG0165_2zadankaifujiwara.jpg藤原       例えば日本語では「ゼンキョウセン」という専門用語がありますよね。前胸腺って多分漢字で書かないと、音だけ聞いても多分日本人でもわからない。恐らく生物は結構そういうのがあるんですけど、名称が漢字で書いた方が分かりやすいというのはありますね。あと準備段階で大変だなと思ったのが、パワーポイントを早目に提出してくれというのが、僕は170枚スライドを使ったので、結構1週間前と言われるとつらいなというのがあって。

石井       代替する方法は無いでしょうか?

藤原       僕なんかみたいに、分野が文系じゃないと準備段階でどうすれば良いのかなというのは考えたのですが、なかなか解決は難しそうですね。

石井       何か論文があれば、送っておくとかそういうことでしょうかね。

藤原       そうですね。文系の学生さんにどう教えるかというのがそもそも経験が無いので、日本人でも良くわからないところがあります。

石井       私は先生の授業に出ていたんですけれども、文系の学生の一人として面白かったところは、理系で実験をして「これが分かった」というときには、どういう手続きを踏んでわかったと証明していくのかというところが見られたのはすごく面白かったです。

DSC02660_zadankaifujiwara.jpg藤原       多分ロジカルなやり方がだいぶ違うんでしょうね。生物の場合は、他の化学や物理とも違うところがあるので。物理とか化学は基本的な共通のロジックを見つけ出そうとしていくんですが、僕は生き物の多様性を追求しているので、どちらかというとディスパースしていくという。そのへんが伝わったかどうかですね。

石井       そのへんを受け止められたかどうかは私としては不安が残るところはあるのですが(笑)、でも、先生のスライドすごく写真が多くてすごく興味深い昆虫や幼虫の写真がたくさん出てきたので、その実物とロジカルなところがリンクしていくのが多分学生さんにも響いたと思います。

藤原       写真をたくさん入れたのはあまり言葉で説明する必要が無いなと思ってわざとそうしたというところはあります。純粋に写真で楽しめるので。興味をひかないと伝えることはできないので。

石井       先生の授業面白かったという意見がかなり来ておりました。

藤原       それはありがたかったです。

石井       変容というテーマはどうでしたか?

藤原       僕自身変態をやっているので、逆にあまりにも一致しすぎてやりにくいというところが。つまり変容っていう言葉が意味しているのは何だろうかって言った時に、あまりにも自分がやっている変態が近すぎてやり辛い。僕はどちらかというと擬態の方をしゃべりたかったんですけど、擬態のロジックと変容を結びつけるのは難しいところがあって。もっとディテールを話しても良いんですけど、そうするとそこでわからなくなるので。理系の学生ならディテールを話すことでよりわかりやすくなるんですけど、文系の場合そこで入っていくとどこまで伝わるかなというのが。

石井       有難うございました。

(2012年4月24日に行った南京集中講義意見交換会より抜粋)

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