賀 暁星(He Xiaoxing)、福島 智
中国のろう者による教育の社会学的考察

南京大学と東京大学の交流は、今年で10年目になります。東京大学の教養教育を海外に発信する最初の目的地として、東京大学リベラルアーツ・プログラム(LAP)は、南京大学にて毎年集中講義を実施してきました。一昨年からは、学生交流プログラムを開始し、相互交流を一層深めています。
本年は両校の交流10周年を記念して、南京大学より賀暁星准教授(社会学)をお迎えし、「中国のろう者による教育の社会学的考察」について、東京大学先端科学研究所で、ご自身も盲ろう者である福島智教授との対談形式でのシンポジウムを開催します。是非ご来場下さい。
日時
2011 年11 月10 日(木) 18:00~19:30
18:00~18:45 賀先生の講演
18:45~19:30 賀先生と福島先生の対談、その後フロアーとの質疑応答
場所
18 号館ホール
概要
聾者の教員が聾教育界において周辺的位置に置かれたり、排除されたりすることは、注目すべき現象である。聾教育の世界は聞こえる人たちの独壇場であり、健常者が聾者の矯正を手伝う事業となっている。調査では、聾者は健常者と日常生活を共有しているが、ある種の異文化の存在であることが分かった。この異文化の世界は、“視覚優先”を特徴とするこの世界の中で、ロジックの原理や秩序の保障と“似通った”ものを作り出している。ことばと物、記号表現(シニフィアン)と記号内容(シニフィエ)が密着し、見ることが聞くことを代替してものごとを認識する主要な手段となっている。聾文化への理解が欠けていたら、“介助”と“矯正”の善意は、ある種の文化の強制になってしまうだろう。この点について社会学の意識覚醒が必要である。視覚主体の画像の時代において、視覚を重視する教育課程の改革を通して、もっと多くの聾者教師を教育に参与させることで、聾教育は聾者に対して更に貢献することが可能になるだろう。
[講演者紹介]

1962年、浙江省嘉興市に生まれる。1986年、広島大学教育学部卒業。1991年、広島大学大学院教育学研究科博士(教育学)獲得。専攻、教育社会学。現在、南京大学社会学院教授。中国教育社会学会副理事長。著書に『子供・親・教育―現代社会における文化と教育に関する中日の事例研究』(共著。甘粛教育出版社、1998)、論文に「中国における聾者の犯罪と教育」(南京:『中国研究』、2008)、訳書に『反=日本語論』などがある。

先端科学技術研究センター教授(バリアフリー分野)東京大学先端科学技術研究センター教授。
9歳で失明、18歳で失聴、全盲ろうとなる。指先に触れて言葉を伝える“指点字”というコミュニケーション方法を母親とともに考案、指点字通訳者を介しての同時通訳で日常生活を送り、企業との共同研究、行政への政策提言など、精力的に活動・研究を行う。著書に、『盲ろう者とノーマライゼーション ――癒しと共生の社会をもとめて――』(明石書店)など多数。受賞多数。
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