ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第4回 03月13日 横尾 英史

廃棄物管理と国際資源循環の経済学

2014/3/13 - 3/14

本講義では廃棄物管理とリサイクル政策を対象として、環境経済学による政策の立案と評価の実際について学ぶ。

我々は人々が需要するものを生産し、取り引きし、そしてそれを消費するという経済活動を行っている。これら生産の過程や消費の後に、不要なものが生み出され、排出される。これを廃棄物と呼んでいる。廃棄物という、社会にとって「価値が無い」とされたものの処分には、労力と土地が必要となる。この廃棄物の処分を我々がそれぞれ各々に行うことは効率が悪い。それゆえ、政府・地方自治体が廃棄物の回収や適正な管理を行う。加えて、社会にとって適正な量にまで廃棄物を減らすために各種のリサイクル政策が実施されている。

本講義ではアメリカ、日本、フィリピン、ベトナムの実例を通じて、世界の廃棄物管理・リサイクル政策を概観する。さらに、国境を越えた廃棄物・中古品の移動についても紹介する。そして、経済学を応用することで環境政策の立案と評価を行う環境経済学の分野における廃棄物管理・リサイクル政策の研究成果を学ぶ。最後に、環境経済学の視点から、効率的な廃棄物管理・リサイクル政策のあり方や、使用済みのものの国際貿易の規制の是非について考える。

講師紹介

横尾 英史
新領域創成科学研究科環境学研究系国際協力学専攻助教。 専門は環境・資源経済学。主な研究テーマは廃棄物管理、リサイクル政策。2010年に京都大学大学院経済学研究科博士後期課程を修了後、国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター・国際資源循環研究室特別研究員を経て、2012年より現職。研究業績は"Global Reuse and optimal waste policy"(Thomas C. Kinnamanとの共著)、“An economic theory of reuse” などがある。趣味は野球。
授業風景

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学生の声

東京大学文科III類2年生
 スライドでは、一人あたり、1日約1kgの一般廃棄物を排出しているとなっている。講義では、1日で1kgのごみをゴミ捨て場に持っていかなければならないというような説明の仕方がされたが、実際にはゴミ捨て場に持っていくのは家庭ごみだけであり、1kgよりは少ないはずである。また、一般廃棄物のなかにはし尿も含まれていたが、一般廃棄物の各項目がどれくらいの割合を占めるのか興味がある。
 「環境経済学による政策評価の考え方」、スライド13について、「青い線の下の面積」とあるが、縦軸の値が費用であるので、縦軸の値をとるだけでいいのではないか。
 費用便益分析の分野は、私たちも日常的に使っている概念であるが、この概念が環境政策の分野に用いられていることが新鮮であった。環境保護の指針は絶対的な善とされてしまうことが多いが、それにかかる費用を冷静に分析することは、大いに意味があると思う。
 ヘドニック法について、地域の地価を用いる際に情報の流動性をどう考えるのかが問題になるのではないかと思った。例えば、ある土地を購入する際に、購入者はその土地の地盤が悪いことを知らずに、その費用を考慮に入れず購入してしまうかもしれない。もし、情報技術が高度に発達した社会とそうではない社会を比較したときに、地価を下げるマイナス要因があるにしても、それを事前に知っているかについて、二つの社会で大きな差があるのではないか。

東京大学文科III類2年生
 ある政策が「よい」政策なのか「わるい」政策なのかは、どのような観点からその政策を分析するかによって変わる。私たちは政策について発言する際、「よい」「わるい」をひとつの面から判断し、気軽にその評価を決定しがちであるが、より適切な判断をするためには、まずはその政策に関係するプラスの価値、マイナスの価値を考えうる限り出し、それらを比較する形で答えを出さなければならないのだろう。
 ところで、私の地元である秋田市のゴミの分別について調べてみた。秋田市では、ごみを家庭ごみ、資源化物(空きびん、空き缶、古紙類(4分別)、ペットボトル、使用済み乾電池、金属類、ガス・スプレー缶)、粗大ごみの3種類12分別している。秋田市における中間処理は、溶融炉は、1,800℃の高温で、ガス化燃焼を行う方式で、プラスチック、陶磁器、革製品など様々なごみを焼却し、埋め立て処分している。このことは、資源の分別に伴う手間を省く、埋め立て処分場をより長く使用するという点ではプラスと言えるが、リサイクル率が低下してしまうという点では(リサイクルをすることの価値がプラスであると考えれば)マイナスの価値も生じる。このように、焼却の仕方ひとつをとっても、評価の基準はさまざまである。

東京大学理科I類2年生
 今回の横尾先生の講義を聞いてまず驚いたのは、いわゆる応用分野で活躍する人が研究として扱うものごとの範囲の広さである。今回は基礎的な話が多くなったから普段専門に扱うこと、考えていること以外の話もあったかとは思うが、横尾さんが行うフィールドワークの調査とその他情報の多様さには驚いた。学問にとって、応用分野は必要不可欠であると思う。一見すると無意味な、思考だけあるいは人為的な環境でのみ行われる実験だけによる研究が広く認められているのは、横尾さんのような実生活に応用する人がいるからだと思う。ただ、実際の世界を見ての研究は複雑で、困難極まりないとも感じた。
 学問としては、どこかに視点を固定しないといけないのであろうが、視点の置き方こそ本当に重要だと思う。自らが設定した視点に違和感を覚えることは必要かもしれないが、共感の持てるものでないと専門にはできないのであろう。また一方で、このような応用に興味を示す横尾先生であったが、自分は白黒はっきりしたものが好きで、人間自身の多様性も面白い。よくできた世界だと思う。
 私自身は、リサイクルという概念が好きで、例えば東京でのレポートにも記したが世田谷区がプラスチック包装などの分別回収をしないことにも違和感を覚える。それなりの手間ひまをかけても環境に良いことが善だと考えている。しかし、そうではない考えを学問として持つ、経済学者の方々がいることを今回初めて知ることができた。経済を、あるいは社会をうまく回していくためには、固まったひとつの考え方だけではなく、なるべく多くの視点からこの世界を捉えていくことが必要であるのだろう。

東京大学理科II類2年生
 授業の写真で印書深かったのは柏市において人が一度分別して捨てたごみをリサイクルプラザなどで再度人の手によって分別がなされているということであった。考えてみれば当たり前である。リサイクルするときにほかの物質が混ざればうまくいかないに違いない。しかしながらそのようなコストと手間のかかるようなことが実際に行われている写真を見るとほかのどの写真よりも社会的費用というものが痛感された。私はこれまでも今でも工学部寄りの考え方でリサイクル率100パーセントの社会を目指すほうがコストを重視するよりも大切だと考えてしまう。そのような考えから少し俯瞰的に問題にアプローチできる経済学という視点を学ぶことができた。
 フィリピンの事例のように他の国で不要となった電化製品を買い取って金を取り出すという話は以前にもよく聞いたことのある話だが、人間に害を及ぼす可能性が高いということ、そして金以外の物質は分けられず捨てられてしまうということ(授業では先生はおっしゃっていなかったので想像ですが)を考えると難しい問題であろう。

東京大学文科I類1年生
 我が国の現在の貿易は、対中国において既に輸入超過(香港経由の取引を含むと輸出超過であるがこれは考慮しない)となるほど、中国は工業国となったという認識を持っていた。換言するならば日本が輸入国であり中国が輸出国であるという認識であった。しかし、中古品の取引という観点から中国と日本の関係を見たとき、日本は中古品の輸出者であり、中国は中古品の輸入者という立場に変わるということを考えてみると、日中の関係は新品と中古品で立場が逆転する関係が見えてくる。
 中古パソコンに関する講義では、途上国によるリサイクルの危険性を伝えられたこともあり、中古電子部品の輸出入はともすると「悪」であるかのように思われる。しかしこのことは別の視点からみると、高度な技術力を持つ国に依れば問題なく金属を抽出することができる良い側面をみることができる。ここで注意しなければならないのは、一般的な資源問題の考えでは「なんでもリサイクルしたほうがいい」との考え方に陥りやすいが、このリサイクルが環境・人的な金銭負荷をかけているという環境経済学的な視点である。あくまでもこの学問世界では費用便益の観点から考慮することが必要なのだ。

東京大学文科III類1年生
 上にも書いたように3点が非常に印象的に残っている。「費用便益分析」と「経済学の考え方」に興味を持ったのは、「いい政策」というのは結局「誰にとって」という視点が必須なのであって、したがって講義中に南京大学生の女学生がいったように、皆これが環境問題だとの認識を前提としているからか、環境面だけを考えて何々はいい政策だと評価する傾向があるのかもしれないが、「経済学の考え方」に基づけばそこでは看過され得る既得権益者の不利益なども付随的に最小限に抑えられるようになるのである。
 次に「ヘドニック法」については、4日目の講義を受け終えてバスに乗って鼓楼キャンパスに戻るとき皆で考えかつよい回答の得られなかった、いかにして外部費用を内部化するのかという問いに非常に明確に答えていた点が面白かった。実は私たちの帰りのバスでの話し合いの中でも、発想の簡単な「仮想評価法」は思い浮かんだが、その「外部費用」が市場価格に内部化されているという一種の矛盾には誰も気が付くことがなかった。
 経済学の考え方に対する興味が深まる2日間であった。

東京大学文科III類1年生
 個人的にゴミの分別の厳しい環境にいたことがなく新鮮な話題であった。そのうえで様々な地域のゴミ事情の事例研究について聞けたのであらたな視点が開けたと思う。今回は文化的にも経済的にも大きく異なる市の事例研究が多かったが、似た状況にある都市(ヨーロッパの都市同士)などを比較することでどのような結果が得られるのか気になった。

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