ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい
第4回 03月12日 伊藤 徳也
頽廃の原理と生活・人生観-周作人の思索に即して考える
2012年3月12日・3月13日
周作人は、頽廃(decadence)の問題を深く掘り下げ、それを生活・人生論において展開させた近代中国の著名な文人である。彼は、ボードレール等の西洋の頽廃派の作品に接して共鳴し、ハブロック・エリスの頽廃論から深い示唆を得た。彼の頽廃論は、頽廃を内発的、発生論的に考えるものであって、結果の側から見て、忌むべきものとして批判するものではなかった。そのように捉えられた頽廃とは、一つの傾向であり、動きであり、すなわちある種の変容であった。彼が頽廃論をどのように彼独自の「生活の芸術」論の中で展開したのかを考察したうえで、私たちの主体的な問題として「頽廃」を考えてみよう。
- 講師紹介
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- 伊藤 徳也
- 核になる専門は近現代中国文学、特に周作人、林語堂、張競生、魯迅。現代中国(戦前から現在まで)のモダニティの諸形式を、それぞれのデカダンス(頽廃)の様態に即して分析したいと考えている。院生時代(1987-89年)に1年半、2006年度に1年間、北京に滞在。南京訪問は1983年以来。
- 関連サイト
伊藤先生の書かれた論文へのリンクです。本講義とも関係が深いので、事前に読んでおいてください。
伊藤先生のHPの、研究内容紹介ページもご参照ください。
伊藤先生HP
- 学生の声
頽廃とはどういうことか、先生の言う周作人の頽廃とは何を意味しているのか理解するのにとても苦労した。頽廃を違う角度から扱ったものがいくつも出てきて、どれとどれがイコールなのか、それとも≒なだけで=ではないのか、理解するのが大変だった。私は最終的に、全てイコールで、頽廃とは様々な意味を含んだ言葉だと理解したが、その理解も違うかもしれない。
(東大学生文III2年生の感想より抜粋)
古典形式の美が頽廃していくとき、全体が部分を支配していたものが頽廃してゆき、部分が全体を支配し、部分自体が全体化しはじめることを「頽廃」と呼んでいた点が、周作人の頽廃概念のポイントだということがこの講義における焦点だった。全体と部分という関係を時間軸に置き換えて考えると、目的や結果という全体を追い求めるのではなく、通過していく部分であるはずの過程そのものを重視していくということになり、芸術のための芸術や、生活のための生活というものに力点が置かれて、そこから変容が生じていくということが重要であったと理解したが、消極的だったり、本来的ではないとされているものに、徹底して、ポジティヴな意味を見出すという内容には共感を覚えた。全体に新しいことばかりだったが、充実した講義だった。
(東大学生博士1年生の感想より抜粋)
- 講師インタビュー
石井 では先生方それぞれのご感想をお伺いしたいと思います。伊藤先生お願いします。
伊藤 私は自分としては反省点がだいぶ多かったです。自分の話したいことをまとめるということで、自分にとっては整理する機会になって良かったのですが、学生討論につなげるような形でもうちょっと工夫をいろいろするべきだったかなと。特に私の場合、変容そのものをあまり語らなかったので、学生さんはちょっと入りにくかったかな。退廃という概念についてお話ししたのですが、退廃は変容だろうと自分の中でつなげちゃってて、そのつながりについて、退廃の話は変容の一つだなと学生さんがわかるようにするようにする部分がもう少し必要だったかなというのが大きな反省点です。討論会に出ればもう少し学生さんの理解とか感想とかもうちょっとわかったかもしれませんが、私は久しぶりの南京で街を見たかったので(笑)。
刈間 何年ぶりですか?
伊藤 84年に行ったので……(笑)初めてみたいな感じで。
石井 私、先生の講義のあとの討論会に出たんですけれども、最初は何かもう一つあると退廃と変容が結びつくんだけどというところがむしろ討論のまとになって、討論会は盛り上がりました(笑)。討論会はついてこれた人とわからなかった人が二層に分かれてしまって、院生グループはすごく退廃論について盛り上がって、とても授業を楽しんでいたみたいですが、その盛り上がりに学生さんたちはついてこれなかったところがあるかと。個人的に私としてはすごく面白かった。退廃自体が変容であって、退廃があるからこそ世の中が変わっていくというイメージが新鮮で面白かったです。
伊藤 そこらへんが両面価値的なものとしてわかってもらえると良いんですがね。退廃はそのもの退廃としてあって、駄目になっていくというのもあるのですが、単純にそれだけでなくて、良くなっていくこともあるという。一般通念としてはやはり悪くなる。でもその内実は、人間社会にとってプラスのものがたくさんある。そのあたりを議論してもらいたかった。
石井 そのあたりは議論としてもありました。退廃を突き詰めていくところで新しい変化が生まれるんだという方向で議論が出来ていたと思います。ありがとうございます。
(2012年4月24日に行った南京集中講義意見交換会より抜粋)
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