ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第11回 01月07日 渡邉 正男

日本における文書の廃棄と再利用

古紙・再生紙に代表されるように、紙は廃棄物リサイクルの典型と言ってよいだろう。日本の前近代においても、紙に書かれた文書は、機能を終えて廃棄された後、あるものは、現在と同じように、漉き返されて新たな文書の料紙とされ、あるものは、翻して裏側の余白が記録や典籍・聖教などの書写に用いられた。前者の特徴的な例が「宿紙」であり、後者がいわゆる「紙背文書」等である。

講義では、朝廷や幕府などにおいて、どのような基準によって、どのような文書が廃棄されたのか、廃棄された文書はどのように再利用されたのか、文書の作成・保管・廃棄・再利用の一連の過程について解説する。さらに、排泄物の分析から健康状態や食生活が分かるように、廃棄され、再利用されることによって伝えられた「紙背文書」等からどのようなことが分かるのか、いくつかの事例に則して検討してみたい。

講師紹介

渡邉 正男
東京大学史料編纂所准教授。 専門は日本法制史。法・制度および権利の関係のあり方が歴史的にどのように変化していったかを、史料に基づいて、具体的に明らかにしたいと考えている。現在は、14世紀の社会秩序の構造変化において、在野の法知識・法技能を有する者達が果たした役割に関心がある。
授業風景

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コメント(最新2件 / 4)

taro    reply

史料の廃棄・保存にも生物の排泄と同じようにその時々に応じた取捨選択が行われ、今現在貴重なものとされている史料の中にも時代によってはひどい扱いを受けていたということがわかって面白かった。

てつ    reply

日本における文書の破棄と再利用という、いままで気にも留めなかったことについて、話を聞かせていただきとても興味が持てました。鎌倉時代の裁判について、理系で深くは学んでいないのですが日本史では頼朝の慣習にしたがって判決がなされていたと習った記憶がありましたが、前半期の文書の管理などを知るとそれもあまり当てにならないのかもしれないなと思いました。いままで歴史は学問として成立していて習うものという認識が強かったのですが、過去を知るに当たってこういった文書の重要性を知り、歴史は研究対象であり、残る文書によって少なからず現代への伝わり方も変わるのだなと改めて感じました。

yasu    reply

いまある歴史を構成する文書はすべて、破棄されずに残ったものであり、破棄された文書のもつ情報は、歴史から除外されているという点が新鮮だった。現代における文書の存在そのものが、文書が作られてから今に至るまで必要とされつづけた証拠であり、文書の集合として歴史を見ると、文書の執筆者たちだけではなく、それを保存してきた保管者の意図も、歴史に介在していると考えられる。ふだん我々は歴史的文書をみるとき、執筆者の意図のみを強く認識するが、破棄という可能性を加味することで、綿綿と文書を受け継いできた保管者の意図をも汲み取ることが出来る気がした。

なな    reply

文書の保管・廃棄は今まで詳しく学んだことはなかったのでとても興味深かったです。廃棄されるはずだった正倉院文書や引付頭人が私的に使用したものが、公式に保存していたものよりも長期間に渡って残った、という矛盾がとても皮肉に感じました。

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