ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第7回 03月23日 清水 晶子

〈わたしの〉身体と自己決定——トランスセクシュアル、インターセックスの身体から照射する

この授業では、〈わたしの身体〉として認識される身体が〈誰の〉ものであり、その身体に関して〈わたしの〉決定権がどこまでおよぶのかを、とりわけトランスセクシュアルおよびインターセックスの身体が問題化してきた点を参照しつつ、考察する。〈わたしの身体〉と〈わたし〉とは、ここで所有格によって表現されるように、全く同一のものではない。しかし同時にまた、〈わたしの身体〉が何よりもまず〈わたしの〉身体であるべきであり、それに関する決定権はまず〈わたし〉にあるべきだという要請は、特定の社会・文化的状況下においてその決定権をより大きく侵害されていた存在に起源を持つフェミニズムやクィア理論の基本をなす主張の一つでもある。今回は、〈わたしの身体〉に関する決定をめぐって、〈わたし〉と、〈わたしの身体〉を取り巻く/つくりあげる様々な文化的・社会的な制度とが、どのような交渉をおこない、どのように共犯関係をむすび、あるいはどのような緊張をはらんできたのかを、具体的な事例もとりあげつつ、考えていきたい。

*なお、この授業に参加する者は以下の宿題をやってくること*
宿題:2009年のベルリン世界陸上(World Championship)女子800m競技の金メダリスト、キャスター・セメンヤのいわゆる「性別疑惑」について、2009年の世界陸上当時から現在にいたる報道などをできる範囲で調べ、国際陸連(IAAF:The International Association of hletics Federations)の対応について、自分の意見をまとめてきて下さい。その際、参考にした報道やウェブサイトがあれば、出来るだけ持ち寄って下さい(言語は、英、日、中いずれでもかまいません)。

1)導入ディスカッション——キャスター・セメンヤをめぐる性別〈疑惑〉
2)〈身体の自己決定権〉をめぐって
3)〈わたしの身体〉の他者性
4)「性同一性障害」とトランスセクシュアルの自己決定権——「特例法」とその周辺
5)医療の介入とインターセックス・ムーブメント
6)(時間の余裕があれば)ファイナルディスカッションテーマ

講師紹介

清水 晶子
東京大学大学院情報学環/総合文化研究科准教授。 英文学修士(東京大学)、MA in Sexual Politics、 PhD in Critical and Cultural Theory (University of Wales, Cardiff)。主な研究分野はフェミニズム/クィア理論。著書にLying Bodies: Survival and Subversion in the Field of Vision(Peter Lang Pub Inc, 2008)。
参考文献
  • Susan Stryker and Stephen White eds., The Transgender Studies Reader (Routledge, 2006)の中から
  • 14. Judith Butler, "Doing Justice to Someone: Sex Reassignment and Allegories of Transsexuality", pp.183-193.
  • 20. Jay Prosser, "Judith Butler: Queer Feminism, Transgender, and the Transubstantiation of Sex", pp.257-280.
  • 22. Cheryl Chase, "Hermaphrodites with Attitude: Mapping the Emergence of Intersex Political Activism", pp.300-314.
  • 米沢泉美編著『トランスジェンダリズム宣言—性別の自己決定権と多様な性の肯定』(社会批評社、2003)
  • 石田仁編著『性同一性障害——ジェンダー・医療・特例法』(御茶の水書房、2008年)
  • アリス・ドレガー著『私たちの仲間——結合双生児と多様な身体の未来』(緑風出版、2004年)
  • Alice Domurat Dreger, One of Us: Conjoined Twins and the Future of Normal (Harvard University Press, 2004)

関連サイト

日本インターセックス・イニシアティブ http://www.intersexinitiative.org/japan/

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