ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第3回 10月24日 開 一夫

心と脳の発達的変容――自己認知の変容

近年、心と脳の発達的変遷を対応付ける研究―発達認知神経系科学―は急速に発展しつつある。多種多様な研究がある中で、我々は自己(と他者)の認知の変遷に焦点をあてて研究をしている。自己認知の実証科学的指標としては、自己鏡像が用いられることが多い。自己鏡像は、いくつかの特徴的な性質を有している。その1つが、自己運動は同時に鏡像に反映される「同時性」の認知である。じっとしていれば、鏡像も同じく動かない。 鏡のこうした性質が、自己鏡像認知の基礎になっていることは確実である。ここでは、同時性に着目して我々が行った乳児から成人までを対象とした研究について紹介しつつ、「自己の発達的変容」の問題について議論する。

講師紹介

開 一夫
東京大学大学院総合文化研究科・広域科学専攻教授。日本学術会議連携会員。日本赤ちゃん学会常任理事。日本こども学会常任理事。慶應義塾大学大学院博士課程修了。博士(工学)。赤ちゃん学、発達認知神経科学の実証研究は国内外で高く評価。また、公開講座や講演、教育番組の制作協力などを通じて、子育てを応援する情報を積極的に発信している。主な著書に、『赤ちゃんの不思議』『日曜ピアジェ 赤ちゃん学のすすめ』(ともに岩波書店)など。
参考文献
  • 開一夫『赤ちゃんの不思議』、岩波書店(岩波新書)、2011年
授業風景

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コメント(最新2件 / 3)

koco2    reply

私達が常識的に想定している自己のかたち、それが人間の発生段階で「変容」しているというお話は非常に刺激的で、かつそれが科学的アプローチによって明らかにされるというのは、不可視の自己に近づくという学問の根本的な要請に積極的な姿勢に思えました。物理的にはタイムラグが発生するはずの知覚が脳によって処理され、一つに統合されるという仕組みは、それ自体が現在時に生きる人間、あるいは生命というものの本質ではないでしょうか。幼児から大人になるにつれて「今」の時間が広がっていくというお話を聞いて、感覚として生じる(作られる)一つの時間の獲得、「今」の保持こそが人間の自意識を形成しているのだろうかと、そんなことを思いました。

mushamusha    reply

幼児期の発達(変容)についての研究は非常に興味を持てました。自己同一性というのがいったいいつにおいて確立されていくのかは、長らく謎だったと思います。むしろ注目すべきは人間が他者に対してこそ大いなる関心を抱いていることにこそあると思います。人間は他者によって自らの存在を規定していく。一人では生きていけないというのは、一人では自分の輪郭すら保てないからだと思います。人間は自分を包むものによって自己を自覚している。タイムラグによる実験は、自分のアクションに対して反応するものが、自分にとって重要であることを幼児ですら理解している証拠と言えます。ある意味、人間は死ぬまで幼児期のありかたを引きずっていくものなのかもしれないと思いました。

You    reply

講義ありがとうございました。幼児の発達から変容というテーマに迫る内容は面白かったです。惜しむらくは、心理の授業内容と被るところがあり知っていた部分が多かれ少なかれあったことでしょうか。もちろん復習になってよかったのですが。
鏡やビデオに映る自分を自分と認識できない状態から自分を把握できるようになるのはいつか、また時間認識モジュールの有無を調べる実験などを見るに、自分が乳幼児になって内観することができないことである以上、観察に留まりそこから一般的な解を「見出して」いくことしかできないことに限界を感じました。
一つ疑念、というか表現上しっくりこなかったものとして、発達を変容と捉えてよいものだろうか、というものがあります。姿や形(容)が変わるという意味では確かに発達も変容ですが、常に一方向へ「成長」するのが発達である一方で変容はあらゆる方向に向けられていると思われるので、幼児における変容というのは外界へ新しく開かれた意識、と捉えることにより本講義が変容というテーマにより近づくのでは、と考えもしました。

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