ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第10回 12月12日 廣瀬 通孝

記憶と記録の変容 I

現在、iPhoneなどのスマートフォンが急速に普及し、多くの人がそれを肌身離さず持ち歩くようになった。これらは、高性能な計算能力や高精細なディスプレイ能力を有するのみならず、カメラやGPSなど様々なセンサを持ち、われわれの行動を電子メディアに記録する潜在能力を有するに至っている。メールやSNSの履歴・センサのログは、人の行動や考え、コミュニケーションの履歴であり、人の記憶や思考はこの履歴を見ることで再構成することができる可能性を秘めている。われわれは生身でいるときと比べ、格段に記憶能力を持つに至るわけである。これらの拡張された記憶は個人で利用できることはもとより、さらに大きな社会の記憶を形成することになるであろう。

本講義では、人や社会の記憶をどこまで記録できて再現できるのか、モバイルコンピューティング、ユビキタスコンピューティング、VRなど、最新の研究を紹介しながら議論したい。

講師紹介

廣瀬 通孝
東京大学大学院情報理工学系研究科、教授。 1954年鎌倉生まれ。1982年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。東京大学工学部講師、助教授を経て、1999年先端研教授、2006年より現職。専門はシステム工学、バーチャル・リアリティ。日本バーチャルリアリティ学会会長、情報通信研究機構プログラムコーディネータ、産業技術総合研究所研究コーディネータなど歴任。1995年読売新聞東京テクノフォーラムゴールドメダル賞、2004年大川出版賞など受賞。主な著書に「バーチャル・リアリティ」(産業図書)など。
授業風景

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コメント(最新2件 / 4)

koco2    reply

様々な具体例や実験例などを通してより身近で現実的なVRの先端事情を知ることができ、学問的に(また、SF的夢想を見ることができた点でも)非常に面白かったです。文系の人間からすると、感覚作用に介入して脳に誤認させたり大量の行動記録をとにかく集めて分析するといった技術はただ感心するしかなく、人間の技術進歩を改めて実感します。今回は感覚器と作用するものの間に介入を行って感覚を変容させるというお話があったわけですが、やがては感覚器と脳の間に介入を行い、情報伝達レベルで操作を加えることができたりするのでしょうか。机上の空論も案外実現してしまいそうな分野の一端を覗いたので、夢は膨らむばかりです。一方で、そういった技術が社会に浸透したときに変えなければならない文化面について、文系の人間は早急に議論を進める必要があるのですが…。

mushamusha    reply

今回のお話で非常に気に入った考え方があります。それはメディアによってありもしないものを作り出すことができるということ。スマートフォンを使えば、何もないところに巨大ロボットを出現させるなんてことは朝飯前です。アイフォンの画面を通じてのみ見える、ありえない存在。労働に関して高齢者を労働力に組み込むことができるという発想にも希が見えている気がします。情報が氾濫している、と言っては悪いことのようですが、氾濫するほどの情報を記録することができ、それを忘れることのないコンピュータというものが、人間にあらゆる贅沢を安価に与えてくれると思います。DNAには無用な個所がいくつも存在するとききます。ワトソンやクリックの偉大なところは、大自然がじつに贅沢に情報を使い、それはもう無駄遣いしているかというところを発見したところにあった問思います。情報はビットさえあれば節約する必要なんかないのです。コンピュータと大自然はかみ合っていないようで、実はとても仲の良い組み合わせなのかと思います。

You    reply

VR技術が登場してから約20年が経過したということで、今では(まだ小型化には成功していない部分もあるが)五感全てに対して存在しないものを存在するかのように演出できるというのは衝撃的でした。それが身近なものではWiiのように、既に社会に浸透しているのも見逃せません。社会は確実に変容しつつある点について考えさせられました。また駅の乗り換えなどにおいて、ある意味で我々は「コンピューターに未来を聞いている」という指摘は目からうろこが落ちたようでした。昔からすれば空想の産物であった世界が今や実現している。このことをどう受け止めていくか、今一度捉え直す必要があると感じました。
講義後半で仰っていたLifeLogの話と過去のデータから推測して未来の予定・計画を立てるシステムの話には、あまりにも荒唐無稽に思える一方で、世界はそこまで来ているのかと驚き、同時に期待を覚えました。とはいえ一方では「管理社会化」への道を歩んでいるようにも思えて恐ろしくもあります。可能であるというポテンシャルを持った社会では、それを利用しようという人間が現れてしまうものなので、進歩する技術に社会を適応させていこうと変容を見出していくと同時に、悪い方向への変容を防ぐ術も考えだして行かなければならないと感じました。

HAT    reply

大変興味深い講義、ありがとうございました。
70年間の人生をたった10テラバイトで記録するLife Logのお話は、情報化社会もここまできたのかと圧倒されました。

「プライバシー」はもともと自分の私生活や他人の目に見せたくない内面のことを言っていたように思いますが、
個人情報保護法が施行されたあたりからでしょうか、個人情報が「プライバシー」として扱われ始めたように思います。Life Logはもう、その典型で、人生一個分の個人情報=プライバシーを扱っているわけです。
そうなってくると、個人によって管理されていた「プライバシー」は機械管理下に置かれ、まるで情報化したもう一人の「個人」まで機械管理下に置かれたような感覚を覚えます。
Life Logはたいへん有意義で便利、愉快な試みではありますが、重大な問題点を孕む研究であると思いました。

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