ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第7回 11月21日 酒井 邦嘉

脳から見た人間言語の変容

言語に規則があるのは、人間が言語を規則的に作ったためではなく、言語が自然法則に従っているからである——。こうしたチョムスキーの言語生得説は激しい賛否を巻き起こしてきましたが、最新の脳科学は、この主張を裏付けようとしています。私たちは、文法処理の時に普遍的に働く中枢(文法中枢)が左脳の前頭葉にあることを突き止めました。また、第二言語(英語)の文法の学習が進むと、脳の可塑的な変化によって文法中枢の活動がダイナミックに「変容」すること が示され、人間の言語に普遍的な脳の「言語地図」が明らかになりつつあります。講義では、言語の「生得性」を正しく理解した上で、後天的に脳で「変容」さ れる言語のしくみについて考えてみましょう。

講師紹介

酒井 邦嘉
東京大学 大学院総合文化研究科 教授、理学博士。 1992年、東京大学 大学院理学系研究科 博士課程修了後、東京大学 医学部 第一生理学教室 助手。1995年、ハーバード大学 医学部 リサーチフェロー、1996年、マサチューセッツ工科大学 客員研究員を経て、1997年より助教授・准教授、2012年より現職。2002年に第56回毎日出版文化賞(中公新書『言語の脳科学』)、2005年に第19回塚原仲晃記念賞を受賞。研究分野は、言語脳科学および脳機能イメージング。言語を通して人間の本質を科学的に明らかにしようとしている。
参考文献
  • Sakai, K. L.: Language Acquisition and Brain Development. Science 310, 815-819 (2005)
  • 酒井邦嘉『言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか』、中央公論新社(中公文庫)、2002年
  • 酒井邦嘉『脳の言語地図』、明治書院、2009年
授業風景

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参考资料

コメント(最新2件 / 7)

koco2    reply

言語習得が脳科学によって数値的に説明されつつあることにとても驚きました。一般に流布している迷信が否定される一方で、適性があるというのは脳科学の現実的な在り様を感じます。左脳が圧迫されない睡眠中は言語機能が上手く働くという現象も、人工的に血流操作などができるようになれば、場面に応じた人間の能力向上に利用できそうで可能性を強く感じました。一つ疑問だったのは、脳が幼児期に言語データから文法を作り出すとき、人間が作った言語は対応されないという点です。現在使用されている言語も歴史上、具体的に人間が文法を定めて作り上げてきたものです。その点で日本語もC言語も変わりはありません。仮に、完璧な文法、完璧な発声方法を定めた人工言語を聞かせて育てた場合でも、人間はその言語を習得できないのでしょうか。脳が区別を行っているのだとしたら、どのような基準で区別するのか、とても疑問に思いました。

You    reply

fMRIを用いることで脳科学がいっそう進みだしていることは知っていましたが、言語習得という非常に難解なことも数値的に解明されつつあるという事実には驚きました。脳の活動領域で仕事の分担が為されていることからさらに発展し、各活動領域が相互関連し、たとえば言語能力が他の能力にも関連してくるというのはなかなか面白い理論です。
左脳優位性については、なぜそのようになっているのかが非常に気になりました。人体を鑑みるに心臓はどちらかと言えば左寄りで、そうした意味でも「左」ということに何か生物学的に大きな意味があるのかと疑問に思います。

mushamusha    reply

脳に関してはよくわかっていないことのほうが多い。言語に関して「テーラーメイド」することが正しいかどうかは僕にはわかりませんが、賛否両論です。ひとつ、脳は人生の中途でも変化しうるのかもしれない。したがって当初言語習得能力が低いと考えられていた人物が高いセンスを後天的に獲得する可能性も否めない点。ひとつ、母語のように外国語を使いこなせることだけが言語習得の価値ではないというところ。つまり、実際にペラペラにならなくてはならないなどという規定はないし、目標に向かって一生懸命努力することの価値を否定することはできない。テーラーメイド教育にはナチスの優生学のにおいすら感じ取れる。頑張ることの喜びを認める主義と能力主義とは必ずしも共生できないわけではない。人間は最終的には言語に対する意識を失っていくのだと、話から推測できる。毎日走っている人が、走ることに抵抗を覚えないのと似ている。ずいぶん長い時間がかかることも似ている。2200時間くらい勉強するといっても、実際のところ勉強という意識がついて回る時点で脳がエネルギーを節約できるとは思えない。勉強が勉強でなくなるときにこそ、本当に会得したことになると信じています。その慣れにかかるのが大体2200時間ということなのでしょうね?

HAT    reply

貴重なお話ありがとうございました。
私もやはり、人工言語は母語になり得ないという部分に疑問がありました。我々が今使っている日本語だって、江戸、明治、昭和…と経るにつれ、文法や語彙は使いやすいように話者が勝手に定めた、という部分も多々あるでしょう。
それと人工言語がどのポイントで脳が区別するのか。というよりは、本当に人工言語を母語にし得ないのか、実験が難しいということなのでしょうか。
乳幼児にどこの国の公用語でもない言葉で話しかけ続け、本当にその言葉を会得してしまっても、大変ですもんね…。
それではどのように、脳が幼児期に言語データから文法を作り出すとき人工言語には対応できないという結論が出たのか、気になりました。

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