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第7回 11月08日 戸石七生

「家」を再考する―中国・日本・インドの「百姓」の家の歴史―(1)

家とは何か。家は家族なのか、親族なのか。家制度の構造を規定しているものは何か。文化の参照か、それとも要請される機能か。本講義は中・日・印三ヶ国の「百姓」の家の歴史の比較研究を通じて、両方の側面から日本人にとっての家とは何かを論じる。受講者には、中国の家を参照しつつも、独自の発展を遂げた日本の家の歴史を通じて、親族とは何か、家族とは何か、家とは何かを再考してほしい。

講師紹介

戸石七生
1977年生まれ。2007年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。農学博士。現在、東京大学大学院農学生命科学研究科講師。研究テーマは農業史、特に日本の家族史、村落社会史、環境史、食の歴史。共編著に『家と共同性』(日本経済評論社、2016)。
授業風景

今回戸石先生は、日本の家というものが社会的制度としてどういう意味を持っているのか、切り口としてまず家系図を家の一つのシンボルとして家を再考するものとして提示しました。

先生の南京での体験では、当初家系図の本場は中国だと思って南京大学の学生に書いてもらおうと思ったのが、そもそも家系図というものを知らなかった学生が多いことに驚いたそうです。中国では日本には無い、縦に長い家系図の「族譜」が家族の伝統的な結束を強めるものだと認識されていたのですが、独りっ子政策で中国の家族観が激変している世代だからなのかもしれません。ただ、今でも中国人は同じ姓の人とはどこか遠くで繋がりがあるのでは無いか、と思うそうです。
また、中国では「字輩」と言い同じ世代の男性が同じ字を名前の中に共有し、日本のように代々同じ字を受け継ぐことは絶対にありません。そして子供は父親に属するという考えのもと、子供は父親の姓を名乗り、同じ姓を名乗る人は基本親戚という感覚です。そもそも結婚は親戚集団を広めるためにするため、同じ姓の人を娶らなかったり、違う姓の子は養子にしないことがありました。

日本では百円ショップで姓の印鑑が多く売ってあるように、姓のバリエーションが多いです。では何故日本ではこれほどのバリエーションがあるのでしょうか。歴史をひもとくと、氏姓は日本の政治と官僚の発展と深く関わっていることが分かります。

姓は天皇が与えた尊称であり、天皇にとって都合の良い人にはより良い姓が与えられていた反面、天皇との距離が遠い地方豪族は姓によってその地位が決定的なものになってしまいます。一方、氏は親族集団を表し、そのうち昔の官僚貴族は藤原氏、源氏、平氏、橘氏などいくつかの氏に分かれます。その後、藤原氏が外戚化と他氏排斥によって上級官職の独占に成功します。しかし藤原氏の中でも政治争いが生じ、同じ氏のグループを識別するためにいくつかの家に分裂するようになりました。

官職では、家を単位に構成されていましたが、氏を超えるような力を持ってきた動きも出てきました。原因としては外戚が徐々に意味を持たなくなり、天皇の男系の親族である退位した天皇がやることになったり。もともと院で貴族が牛耳っていた政治を官職を超えて抜粋するようになり、官僚貴族が無力化されていきました。

現代日本では明治維新までは氏姓も付いた名前がフルネーム(例:近衛文麿は藤原(氏)朝臣(姓)近衛(家名)文麿(諱))として使われていたのを、明治政府になると氏姓制度が廃止されることになります。

コメント(最新2件 / 21)

ma7    reply

家の中に住む人(多くの場合)共通である名字についての講義だった。名字について考えたことは今まで無かったが、中国では名字の種類が少ないのに日本では豊富であることも、よく考えれば不思議である。日本においても元々は名字(氏姓)の種類が限られていて、その後差別化をはかる動きが見られたことがわかった。名字というものを通しても、その国独特の歴史や国民性が見えて来ることに興味深く思った。日本と中国以外の名字についても知りたいと思った。と同時に、今後社会の変化(グローバル化に伴う国際結婚など)に伴い名字がどのように変化していくのかを考えていきたいと思った。
先日名字についてのNHK番組を見たのだが、その際に庶民にとって名字をもらえることはありがたいことだという解説があった。今でこそ名字が与えられているが、どのように与えられていったのか疑問に思った。

nagi5    reply

大変興味深い講義でした。
特に講義の冒頭で行われた、「家系図を描く」というアクティビティが印象に残っています。自分自身の家系図を描いてみると、祖父母やいとこくらいまでの近さの実際に会ったことのある親族しか描けませんでした。
また、中国の学生もあまり自分の家系について詳しくないという事実に驚きました。

AIL205    reply

私は歴史が好きで、大学受験でも日本史と世界史を選択していました。そのため今回の講義の内容は非常に面白く、また懐かしく感じられました。一方で、氏姓制度とは異なる「家」という概念は新鮮で、氏を超えて同じポストで繋がっていくという堂上家の話からは、日本史で学んだ身分制度という概念の中でも、氏の分裂や堂上家の成立など様々な様相があったのだと考えました。
これは個人的な考えですが、中国というとやはり儒教が根付いているイメージがあります。儒教では父母兄弟といった近親への仁を説くそうですが、中国における親族のまとまりの強さもここから来ているのではないかと考えました。同姓であるだけで家族のように感じるという考え方が今も残っている点で、歴史の壮大さのようなものを感じました。

akioto0927    reply

日本と中国における家系の違い。特に日本に固有な「姓(かばね)」と「氏」から、日本の「家名」誕生についての歴史をたどる話はとても興味深く、日本史を選択していない自分でも概要をつかむことができました。次回の講義も楽しみにしています。

ma76    reply

中国で家系図が身近でないことに驚いた。
はとこまで家系図をかける人がいて驚いた。
自分に関してはいとこすら名前が確実にはわからなくで、もうちょい親類関係を大事にしようと思った。
川のように長い家系図見てみたいと思う。

7vincent7    reply

先生の講義を受け、まず自分が思っているよりも家系図を書けないことを発見しました。名前が思い出せない、漢字が思い出せないなど、様々なことに驚きました。また、一番興味を持ったのは、日本と中国における、名前での漢字の共有の仕方の違いです。徳川家にみられる家という字のように、日本では代々同じ字を受け継いでいくのに対して、中国では字輩という同じ世代の男性(親等数が同じ男性)が同じ漢字を共有する風習があるのが興味深いです。なぜそのような違いがあるのかを掘り下げて知りたいです。

ueup8    reply

これまで姓名の由来について考えたことが無かったので非興味深く聞かせていただきました。日本史は中学校以来ほとんど触れていなかったので丁寧に解説していただいてとても助かりました。

oka430    reply

始めて自分の家系図を書くのに挑戦しましたが、全く書けずに苦労しました。中国では人口が多いにもかかわらず、あまり名前のバリエーションが多くないということに衝撃をうけました。中国との比較でより、日本での家について考えさせられました。

mdk216    reply

家系図というものを今まで書いた事がなかったので、そもそも自分の家系を思い出すという事自体が新鮮で、また近くの親戚までしか書けなかった。名字という観点から家についてのアプローチを得られるというのは興味深く、名字に関わる歴史的背景を知る事ができた。

astonrin0514    reply

姓というものには元々何となくの関心はあったが、歴史的な成立過程がきちんと聞けたのはよかった。
中国では同姓の者同士で同族意識があるというのは、三国志が好きなこともあり少し知っていた部分だったが、若い世代はともかく現代にもその意識が生きているというのは驚いた。例えば、劉備が益州を得る際に、同姓である益州太守劉璋を攻めるのを道義的に躊躇った話が有名だが、劉備が中山靖王劉勝の末裔を名乗っていることから、やはり中国では男系血族の同族意識は強いものだという認識があった。

一方、自分の家系図が思いの外書けないのは少し驚くところでもあった。私には従兄弟が一人もいないので、祖父母までしか家系図は書かず、親戚の人も会ったことはあっても苗字も名前もわからない人ばかりだった。祖父母の家には代々の家系図があったはずなので、帰省の折には見てみようと思った。

mthw509    reply

中国との比較が面白かったです。同姓不娶というのが不思議でした。また、日本の姓名について、藤原氏あたりからがルーツだとなんとなく思っていましたが、今は混同されている氏と姓がその頃は別のもので、氏である『藤原』は現在の日本人の苗字にあたるところではないというのが驚きでした。

panda123    reply

今回の授業で初めて家系図を書いてみたけれど、自分の親戚関係について、私は物心がついてから会った人以外はほとんど把握できていないのだなということに気付いた。また、氏の成立過程には官僚制が関わっているということなども知らなかったので、興味深かった。こういったことを踏まえて、家や家族について考えていきたいと思う。

minorin7    reply

この講義で日本の姓名制度の発端を学びました。今まで自分の先祖に深い興味はなく家系について全く知りませんでしたが、この講義で姓というものを詳しく知って自分の「家」がどういうものなのか調べてみようと思いました。

Sugaya79    reply

始めに家系図をできるだけ書いてみるというタスクを課されたが、僕を含め皆あまり広い範囲は書けていなかった印象を受ける。また、中学生の頃の友達の家に何世代にも渡る大きな家系図が壁にかけてあったのを思い出す。僕たちがあまり家系に詳しくないとしたらその原因に核家族化や親類との付き合いの希薄化があると思う。また、(理屈を聞いたら容易に納得出来たが)日本より中国の方が姓の種類が少ないこと、姓と氏が違うということを聞いて驚いた。

morizo15565    reply

家系図を書いてくださいと言われ、とまどった。祖父母やいとこまでしかわからなかった。また、実際に書いてみると会ったことはあっても名前を憶えていない親戚が多いことに気づいた。
日本史はとっていなかったが、日本の氏の成立過程に中国を参照とした官僚制が深く関わっていたことや、氏と家が補完関係にあることがわかりやすかった。
「家」というものについて新しい側面からアプローチしていて面白いと思った。

0240ym    reply

先週のイスラームの講義とは打って変わって古代日本の官僚制から家を読み解く授業だったので、少し驚きました。
はじめ講義を履修した時は「家」と言われたらただの構造物しか思い浮かびませんでしたが、多角的な視点から家をとらえられることに気づかされました。
家を規定するものが氏というだけでなく、日本の氏制度が逆に家を規定しているという視点が興味深かったです。
次週も楽しみにしています。

grape22    reply

講義の冒頭で自分自身の家系図を描いてから家を考察するという点が非常に面白かったです。家を家族と捉えるか親族と捉えるかというその範囲は、人によって異なると同時に、同じ人であっても場合によって異なることがあるだろうと考えました。たとえば、今回のように家系図を描く場合には、普段はほとんど家族としては意識していない親族も、家の範囲に含めることが多いと思います。また、中国と日本の家を比較すると、中国では結婚後も父系のファミリーネームが使用される一方で、日本では結婚後は夫婦で同姓になるということが興味深かったです。日本で、中国よりも家の独立が強かった原因を考えてみたいと思いました。

ngnl0715    reply

自分の家の家系図を書くのには大変苦労した。何せ従兄弟の顔すら知らず、祖父にも最近会う機会が少ないという親戚どうしの繋がりが薄い家なので、ほとんど家についての知識を持ち合わせていなかったからだ。日本史で大和時代だか飛鳥時代の分野で氏姓制度というのを学んだが、今回はそれに似たた氏などの制度を学ぶことができ、この分野の奥深さを感じられたと思う。

Laco1925    reply

今回の講義において家は時間的広がりを持った社会的関係性として捉えられていて、これは今までの講義にはない視点であり、非常に有意義だった(長谷川先生の講義が時間的視点に立つものかどうかは議論が分かれるように思われるが、私はそうではないと考える)。現在では氏と姓の区別もほとんど存在しない中で、氏と姓が中国的な官僚制度を前提・背景として成り立っているというのは、私にとっては考えたことがなかったことである。この時、時間的・社会的関係性として家のあり方はこのような氏姓システムによって規定されるものなのだろうか。もしそうなのであれば、現代において家のあり方は、以前とは異なる形で規定されているのだろうか。また、離婚した家の子は、少なくとも古代の家のシステムにおいてはほとんど孤立した家系として捉えることができると思うが、これは古代・現代の双方においてどのような位置付けを持つのだろうか。

fs0312    reply

家系図が書けなさすぎて、自分の家についてもう少し興味を持たなければと思った。
昔よりも家系としてのつながりが希薄になっているのではないかと思った。

ma7    reply

扶養とは何かという議論から始まり、結婚や離婚など、家に一緒に住む人に関する事象を、エジプトと日本で比べるということだった。イスラーム文化では(エジプトを含む)諸々の規則が神と個人の関係で成り立つのに対し、日本では血縁者を含む村落共同体で成り立つという違いがあることがわかった。と同時に、イスラーム圏では男女格差が日本に比べても大きいと感じた。例えば、離婚は妻の同意なしに夫による独断で行われる。この男女格差は一夫多妻制によるものだと思う。1人の男性に対し、多くの女性が婚姻関係を持つゆえ、一人一人の女性の地位が男性より下がってしまうのではないだろうか。
イスラーム圏と比べることで日本人がもつ思想や文化の特徴を垣間見れた気がする。

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