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第8回 11月22日

「家」を再考する―中国・日本・インドの「百姓」の家の歴史―(2)

家とは何か。家は家族なのか、親族なのか。家制度の構造を規定しているものは何か。文化の参照か、それとも要請される機能か。本講義は中・日・印三ヶ国の「百姓」の家の歴史の比較研究を通じて、両方の側面から日本人にとっての家とは何かを論じる。受講者には、中国の家を参照しつつも、独自の発展を遂げた日本の家の歴史を通じて、親族とは何か、家族とは何か、家とは何かを再考してほしい。

授業風景

前回は中国の氏姓と親族集団の関連や日本の氏姓発展の歴史について紹介されました。今回は更に掘り下げて日本と中国とで庶民の宗族がどのように違い、違いはどう発展してきたのかを見ていきます。

中国と日本とでは、結婚や相続、女性の役割と所属で違いが見られます。集団の編成原理は父系がともに多いものの、中国では外婚(異姓)が多いのに対し、日本では平行いとこ婚もあれば違う親族集団の人との結婚があり、定まったものではありません。家産の相続は、中国では同世代の男子で均分されるのに対し、日本は単独で相続が行われ、適正な男性相続がいない時は女性も相続できることになっています。女性はどちらも男性を財政的にサポートする役割ですが、中国では女性は夫と同じ姓を名乗らずに相続から排除され、日本では夫と同じ姓を名乗り、家産の中の動産(着物など)を相続します。家産が中国では分割できず、日本では不動産と動産に分割できるように、認識が違うことも注目すべき点です。

なぜ宗族はこのように異なるのでしょうか。中国では科挙が宗族集団の構成を担っていたという話から、能力主義がこの差を生んだのでしょうか?しかし、日本では尚武の気風(戦場での手柄重視)があり、一概に能力主義では無いとも言えません。能力主義で説明できないとなると、何で説明すればいいのでしょうか。視点を変えて、そもそも氏族と同族が所持する「家産」を切り口として考えます。ここでの家産とは、農民にとっては耕地に当たります。

では土地を管理しているのは誰なのか。日本では家の成立に「村」が果たす役割が大きいです。戦国末期からの日本では、土地の囲い込み、管理は「村」の役割でした。ただ、当時も人々が他の村に移るなどで空き家や耕作放棄地などが結構ありました。これらの管理は大変だったので、村で株式(耕地・宅地)として管理を行うことになりました。株式を所有する人は村にとっての正式なメンバーであり、納税者となります。そして株式は「家」単位で所有し、付随する財産(耕地・宅地)は男性が相続して管理、個人の所有する財産(着物など)は女性が相続して管理し、2つは区分されます。仮にその家の株式に後継がいなかった場合はその親族のメンバーを村に提供して空いてしまった株式の管理責任を負わせるような仕組みになっています。

家産の管理方法が異なることによって、宗族と同族の構造が変わってきたと考えてもいいでしょう。

コメント(最新2件 / 22)

gene32    reply

日本が血縁と地縁のどちらを大事にするかという話でしたが、確かに日本の家は両方の特徴を持つように思います。しかし、死に際しては血縁を大事にするのではないかと思いました。相続は基本的に血の繋がりのある親族にするものとされているし、お墓は代々受け継がれるもので、私も死んだら全く知らない先祖と同じ墓に入ることになるでしょう。地縁の大切さも重要だが、最終的には血の繋がりに戻るのだと私は考えます。

7vincent7    reply

日本の農村は中国のものの影響を強く受けていると同時に、インドの農村と共通点をたくさん持っていることを学びました。特に、私的な財産に関して、日本では主に良い生地から作られた着物、インドでは腕輪などアクセサリー類という違いこそありますが、それらを貯蓄とし、いざという時に売却するという市場経済における役割があるということが興味深かったです。
なぜインドと日本の農村にこれほど共通点が生まれるのかが知りたいです。

ma76    reply

日本の農村は中国とインドの影響を大きく受けているということを学びました。
このように農村に共通点があるのは興味深かったです。
何事も合理的に行われると似てくるのだなと思いました。

AIL205    reply

日本の村のシステムが、文化的関係の薄いインドと類似するという点が意外でした。歴史においては何かと男女の身分差が付随しますが、女性にも私的財産の管理という仕事があったという話の限りでは、男女の役割には甲乙つけがたいものがあると感じました。しかし一方で、両者の仕事における公私の区別が、今日も根強く残る「男性が外で働き、女性は家事をこなす」というステレオタイプにつながったのかもしれません。現代におけるそのような「分担」が問題視されるのは、過去と現在で経済の構造が変わったためではないかと考えました。
いずれにせよ、私的な家というのものが村に支えられていたという論点は、日本史で出てくるような「惣村」に比してミクロな視点であり、非常に興味深く感じました。

gb2017    reply

日本の家が機能的にインドとの共通点が多いということが意外であり、面白かったです。日本の家が地縁的な性格を強く持ち始めたのは、武士の台頭に始まり、江戸時代の封建的支配体制が深く関わっているのではないかとも思いました。

mthw509    reply

日本の農村が、インドの村とたくさんの共通点を持っているのが意外だと思いました。歴史的に中国とは繋がりが深いから、影響を受けていることは納得だけど、インドはそれほど繋がりも強くなくて、地理的にも近くないからです。
また、日本やインドで女性が私的な財産を相続するというのは、あまり意識してこなかったけれど、言われてみれば確かにそうだなあと感じました。

HSn1230    reply

日本の農村は中国からの影響が大きいのは常識として知っていたことでしたが、インドとの共通点が多いというのに驚きました。
韓国・北朝鮮など他の東アジアの国についても知りたいです。

ram168    reply

日本の家庭が歴史上、血縁重視か地縁重視かという判断は難しく両者の特徴を備えながら日本の家庭制度は成熟してきていることがわかりました。今までの講義は全体的に血縁としての家に着目している講義が多かったので、地縁的結合を家と捉えて比較するのはこの授業の中では新鮮な発想で新たな見方だったように思います。高校時代に日本史を学んだ時、弥生時代の農耕生活への変化や室町時代の惣村の形成の中で地縁的結合が日本では重視されるようになったと聞いてきたのですが、同じように農耕生活で共同で農業に当たらざるを得ないのに中国では血縁重視であり続けるのはなぜだろうかと不思議に思いました。モンゴルや中東の農耕民族でない遊牧民などではどういう結合が重視されるのかも気になっています。

mk0806    reply

比較研究について、日本とインドを考えることに疑問を抱きました。文化の交流について詳しいことはあまりわかりませんが、中国とインドの文化的交流が大きいのかどうかが気になりました。その場合日本とインドが中国を介した間接的な文化的相互参照関係は成り立たないのでしょうか。

mdk216    reply

中国やインド、日本を比較しながら家の制度について考えていくというのは全ての学問に共通する方法であり、それを通じてかつての文化をうかがい知ることができた。国同士の距離は近いのに文化が異なったり、一方でどこか似た所があったりといった発見があった。

minorin7    reply

日本の農村は中国とインドの影響を受けているということを学びました。テレビなどを見ていても日本の農村と中国、インドの農村との繋がりなど全く気付かず、日本独特なものだとおもっていたので、とても興味深い講義でした。

astonrin0514    reply

インドの家族関係について、カースト制が広く知られていることから血縁集団優位というイメージがあったが、実際には地縁原理型というのは少々意外に思えたところだった。
同時に、インドのバラモン階級ではその友人もほぼ同格、つまりバラモン的に扱われるという話を思い出し、カースト集団について授業で言及された所と自分の中で繋がった。

近代化の進展と共にヒト・モノ・カネの移動が活発になると地縁本位の関係は加速度的に希薄化していくように思われるが、血縁関係は未だ日本でも根強い。
その中で、地縁原理に基づく社会が未だに根付いている村落という共同体について再考することで興味を持った。

Moo123    reply

日本の農村は中国とインドの双方に類似点があるとのことでしたが、インドの農村と類似点がある、とのことに驚きました。文化はグラデーションのように変わって行くものだと考えていましたが、農村の文化という点では、日本は飛び地のようになっているのかなと思うと興味深いです。

panda123    reply

日本は多くの面で中国の影響を受けているため、家の制度も中国の影響を受けているというのは想像がついたけれど、インドとの共通点も多いということは私にとっては意外で、興味深かった。また、比較をすることでこそ見えてくるものがあるのだと分かった。

grape22    reply

日本の家を中国とインドと比較するという視点が興味深かったです。日本は、文化的影響を強く受けた中国との共通点もありながら、一見直接的な影響はないように思われるインドとの共通点もあるということが面白いと感じました。中国とインドという二つの地域を軸とした今回の比較では、日本は特殊な例とも考えられますが、他の諸地域との比較についても考察してみたいと思いました。

tsu2954    reply

女性の所属や相続の仕方など、日本の文化は私にとって当たり前だったが、他の文化と比較することで、その特徴が見えてきて、当たり前が揺るがされるという面白い体験ができた。
また、科挙に関連付けてなされた、中国の宗族の編成原理についての説明はすごく納得がいった。このように、文化がどういった因果で発達したのかを説明することに興味を持った。インドと日本では気候も地形も異なるのに、似たような社会制度が発達したようだが、それは単に偶発的に起こったのか、何か理由があるのか気になった。

haru3131    reply

日本の農村とインド・中国の農村の比較が面白かったです。
日本史を学んでいてもこういう話は知らなかったので、より視野を広げることでいろいろなことが分かるのだなという発見にもなりました。

morizo15565    reply

日本の家が中国の影響を受けて成立したことやインドと共通点が多いこと、また、比較研究の有用性がわかりました。
日本の家は血縁原理支配型の中国に近いのかなと思いました。
家や親族についてもう一度考えてみるいい機会になりました。

aub0625    reply

日本の百姓の家が、中国とインドのものと多く共通点を持っているということを初めて知り、少し意外でした。直接影響を受けたものもあれば結果として同じになったものもあり、非常に興味深かったです。

ngnl0715    reply

日本史選択なので日本の百姓の村の仕組みについてはある程度学んだつもりでいたが、今回の講義で村の思わぬ側面を見ることができた(例えば日本の村は中国とインドの影響を少なからず受けていることや、村においては親族が株式所有者を配給元することが期待される、など)。

ueup8    reply

日本の家制度が特段影響がなさそうなインドのものと類似しているということは面白いと思いました。相互に影響がなさそうなのに類似した特徴を持つ複数の文化を比較してみることで、どのようにして文化が形成されていくのかを類型化することもできるのではないかと思いました。

ma7    reply

日本の家族を考察するために、中国とインドとの比較を行うという興味深い授業でした。なぜ、そのような違いが生まれるのかもう少し詳しく知りたいです。と同時に、その他の文化圏における家族の比較についても知りたいです。

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