ディシプリン(学問領域)に
とらわれない思考を身につけたい

第12回 12月20日 大月敏雄

家を越える家族(1)

近代における住まいづくり・町づくりの分野では「1家族は1住宅に住むものだ」という暗黙の前提があった。この前提は、高度経済成長期には機能していたように見えたが、少子高齢縮小社会においては機能しなくなった。本講義では、縮小していく日本社会において、「1家族は1住宅に住むものだ」という前提を疑ってかかる事から見えてくる、新しい社会を一緒に考えてみたい。
参考文献:大月敏雄『町を住みこなす-超高齢社会の居場所づくり』岩波新書2017年(あらかじめ読んでおかれることをお勧めする)
講師紹介

大月敏雄
人間がより豊かで多様な関わりを持てる環境を作ることを目的とし、人間が環境をどのように知覚・認知しているか、あるいは環境における人間行動、生態など、人間が本来的に持つ性質を実証的な観察・実験により明らかにし、それを基礎とした建築・室内・環境デザインの理論を構築するための研究を行っている。 具体的には、人間個体まわりの空間、住宅内、病室、オフィス、公共的空間などを対象としている。
授業風景

今回は建築学を専門とする大月先生に、今の社会のニーズを捉えて住宅の計画をどう建てかをメインに話してもらいます。

高齢化が進む中、地域の医療、介護、介護予防については多く議論がなされている一方、高齢者が孤独死しない、悲惨な死に方をしないような「住まい」をどうしたらいいのかについての議論はあまりなされていません。

住まいに対する考え方は変化しつつあり、国によっても異なります。

まず日本では、昔庭付き郊外一戸建て住宅が目標とされていました。よく購入のきっかけとなるのはだいたい親が30代の時に子供が生まれるタイミングや、ローンの会社の勧めであり、この時約30年の住宅ローンを組む決断をします。これは、日本では転職せず年数を重ねるにつれ徐々に給与を増やす形態とも関連します。ただ、30年のローンを組んだことにより引越しが自由にできなくなり単身赴任の状況が生じたり、住宅に追加投資(リフォーム)するインセンティブの低下でバリアフルな環境になってしまうなどの問題が生じます。また、現在それらの郊外は軒並み老人が住む団地のようになっていきます。住まいについて、どういう家に引っ越した方が「いいのか」という研究は無く、いい家を建てることについては研究されているけれど適正な住宅についてはあまり無い状況です。

参考としてアメリカの住宅事情と比較しました。アメリカの給与曲線は転職するにつれて変わるため階段型になっていて、転職するにつれて引っ越します。そのため、家をいつでも売れるように常に整理して住宅の「価格」を保つ工夫がなされていると考えていいでしょう。家をあとにどこかへ出向く単身赴任も無くなります。

近年広まっているシェアハウスへの認識も変わっています。先生の世代にとっては抵抗があるものが、40歳以下だとあんまり無いのは、プライバシーの概念が変わってきているからだと思われます。プライバシーと個室は強く結びつけられていましたが、他人とシェアすること、便器や風呂を共用することに対してのハードルが今の若い集団では低いと考えていいでしょう。

日本で団地が多く見られるところもあるでしょう。1920-1970当時資産を一気に蓄積することに成功した人がインフラがまだ整ってない東京に流れ込み、住宅不足が生じました。1400万世帯中420万戸住宅不足1945(戦後)で、焼けたバスに住んでいた人もいました。政府は住宅ローンを長期に貸す住宅金融公庫、公営住宅など設立し、住宅不足を解決するために団地がいっぱい建つようになりました。(SA・徐行)

コメント(最新2件 / 20)

7vincent7    reply

非常に印象に残る授業でした。先生がまず最初に地域包括ケアシステムを説明してくださった際、政府の政策について、「家で死ねば、病院などで死ぬよりも医療費などがかからない」とおっしゃったことが特に印象に残っており、分かりやすい例であったと思います。
また、世代ごとの人数の棒グラフの推移を考察し、様々な事象を観察することが興味深く、特に、センター商店街に関しては、廃れてしまう理由として郊外に設置される大型ショッピングセンターばかり考えていたので、25年経つと住宅内の家族構成が激変するという理由は新鮮に感じました。

aub0625    reply

非常に興味深い講義でした
特に、一般的な日本の会社員の一生について収入・生活・家などの多角的な視点から扱ったお話おいて、アメリカとの対比から見る日本の異質さをわかりやすく理解することができました。
また最後の質問コーナーでのお話を伺い、将来は賃貸に住もうと思います(笑)。

gene32    reply

1世帯1家族1住宅という固定観念を覆す講義でした。高齢化が進む現代においては、高齢者のある程度の自立と家族との交流の維持という観点から近居という方法が最も有効ではないかと思いました。また、行政的には空き地とみなされる土地も実際は近隣住民によって有意義に利用されていることもあると知り、先生が行われているような実地調査の大切さも感じることができました。

fs0312    reply

講義の途中でお話に上がった、「自分が家族と思えばそこまでが家族になる」という言葉がとても印象に残った。講義の内容は建築関係で深い理解こそできなかったが、従来の家の理想や固定観念が崩れつつある、という理解をした。

gb2017    reply

とても興味深く楽しい講義をありがとうございました。アメリカと日本の比較が印象的でした。アメリカ人は家族ファーストで日本人は仕事ファーストの傾向は家の管理方法や家に対する見方に影響していることがわかりました。アメリカ人の方が引っ越しする傾向にあるのは、アメリカ人が日本人よりも独立してるのかなあとも思います。日本は島国で国土が狭く、強い村社会が昔から存在していたことから考えると、引っ越ししにくいのだと思います。色々考えさせられる講義でした。

mdk216    reply

家に長い間住み続け、住み慣れていくことで、建築の際に想定していたものとは違う形に家が変化していくということは興味深かった。それを考慮しながら、なお人や社会、福祉にフィットするように家をデザインするというのは難しそうだが、同時にやりがいのあるものだろうと感じた。最後の質疑応答でも、最近のルームシェアについてなどの話を聞くことができた。

ma76    reply

家と社会が関係していることがわかった。
私は京都出身なので、京町家などをよく見たのですが社会の影響なのだなと思い、興味深かったです。

AIL205    reply

今回の授業は、日本の現代史を辿っているようで、非常に興味深いものでした。地域包括ケアシステムの中心にある「住まい」の議論がないというのは確かにその通りで、多摩などの「ニュータウンの高齢化」がニュースで取り上げられるくらいでしょう。しかしそのような現象が高齢者の孤立化や空き家の増加に繋がっているというのは憂慮すべき事態だと考えます。地域の衰退という論点はもちろんですが、例えば高齢者の一人暮らしは振り込め詐欺を助長しますし、空き家は行政による処分などで大金がかかります。その意味で、「住まい」の研究は、個人や行政の財政的な側面からも、有意義なものであると考えました。
一方で、世帯を超える家族の話も興味深かったです。家の拡大は住宅が余っているからこそできることではありますが、地域の活性化や空き家の解消につながる点で重要でしょう。さびれゆくイメージがあった団地にも、まだまだ活性化の可能性があったのだと感じました。

ram168    reply

現代の日本の家庭環境、住環境、社会構造に沿った柔軟な住宅を建築していかなくてはいけないと言う大月先生の講義は大変興味深かったです。日本の住環境は住む区画、住む人間の種類、その周りの環境、購入する年齢層まで固定的になっていて、現代の家庭状況に対応できていないことがよくわかりました。アメリカ人の住宅に対する考え方を聞いていて、海外との比較も非常に面白いなと感じました。現代の新たな解決策がどのように提示されているのか、次回の授業で興味を持って聞いていきたいと思います。

oka430    reply

家についてのある理想像、求められているものが時代と共に移り変わっていっていき、その変化は家庭のありかたの変化と連動しているということについて学びました。
家について学ぶことで社会の姿も知ることができて面白かったです。

haru3131    reply

様々な視点から家のあり方を紹介していて面白かった。「家」というテーマのもと、今までの講義では建築物としての家よりも「家族」「精神的な意味での帰る場所」「親族」といった血縁関係や精神の拠り所としての家について語られることが多かったぶん、ストレートに物としての家について聞けたのはむしろ新鮮だった。
建築の様式(一戸建てなのかマンションなのか)や築年数によって住む人の年齢構成が異なることや、時代とともに家のあり方が変わってくることはあ当然のようで普段意識していないことだったので、改めてデータとともに知ることができてよかった。また、都市計画的な話も聞けて興味深かった。毎回毎回この講義では様々な専門の話が聞けて面白い。

minorin7    reply

年代による住まいに対する考えの違いがあることを知りました。大人になると住まいとはこのような意味があるのかと新しい知見が増えました。また、海外との住まいの常識の違いも興味深かったです。

grape22    reply

家族と家の関係を深く見直すきっかけになり、大変面白い講義でした。「人生のスパンで住宅を考える」で、結婚や出産といった事情と収入の関係で35歳で住宅を取得するメカニズムを知り、それが現在の様々な問題につながっているのだと思いました。より良い住宅や地域の創出のために、「家を超える家族」という実態を捉え直すことが重要だと感じました。

panda123    reply

人生のスパンで住宅について考えると、住宅の種類によってどういった年齢でどういう家族構成の人が住むかが違うというのは興味深いと思った。また、日本の終身雇用制や年号序列制なども家の持ち方などに影響するのだなと思った。

HSn1230    reply

家から社会制度や文化の特徴、自分の将来を考察するきっかけとして面白い講義だった。最終回の次回では家の構造から様々なことを考えてみたい。

Laco1925    reply

今回の講義で、物質的な家と概念的・精神的な家の関わり方について学ぶことができた。この講義で扱われた物質的な家は、自分が日本を歩いてもっともよく目にし、そして自分も住んでいるような、一番身近な「家」であった。自分は、日本の物質的な家が大嫌いである。美しくないからだ。今回は、自分がもっとも嫌悪する、代わり映えのないアパート、世界で最も醜い一軒家群、薄汚れた団地がどのように成立したかを学ぶことができた。おそらく、これらの建物群は、昭和期のような早さで建て替わることはないだろう。その時、今ある建物群を「脱構築的」に使う事例があるということは非常に面白く、また希望を感じさせるものであった。日本の街が脱構築された時にはもう少し美しいものが現れるかもしれないと、わずかに感じた。

ueup8    reply

住宅の作られた年代によって住宅地の年代が偏るということは聞いていましたが、所有形態などの住戸種別が住む人の層に影響を与えているという視点はなるほどと思わされました。ニュータウンや団地など、確かに画一的な設計が多く、また賃貸は賃貸の住宅地、分譲は分譲の住宅地といったようにまとまったところが多く、それによって今求められている多様性が欠けているように感じます。多様性という意味では意味では理想的な住環境を作り上げることを目的に設計されたニュータウンよりも、スプロールのような形で無計画に発生していった住宅地の方が多様性を確保できていてある種健全とも言えるのだろうかとも思いました。
また、従来の画一的な間取り、広さの住宅に限らない、多様な住戸スタイルが求められているとのことでしたが、新たに建物を作る需要も厳しく、空き家の増えた現代ではリノベーション等を通じていかにして中古物件を柔軟な家づくりをするかが課題になってくるのかなと思いました。

ngnl0715    reply

文系でありながら進振りでは都市工や建築に進むことを検討している自分にとっては大変興味深い授業だった。中でも面白いと感じたのは昔と比べて「上がり」が多様なものになった現代住宅双六であり、さまざまな選択肢を選ぶことが可能になった現代を上手く表していると思った。

ma7    reply

アメリカ人に単身赴任の概念を説明するのが大変という話が大変印象に残りました。日本だと新築の家に住み続けることが定番となっている一方で、アメリカでは新築にこだわらず、賃貸の世帯も多いという日本とアメリカの違いを見ることができると思います。

mthw509    reply

興味深い授業でした。最後の質疑での、昔の人よりもシェアハウスに対する抵抗感が変わってきているというお話、非常に面白かったです。確かに私も、自分の部屋はあるし、そこで完全にプライベートな空間を作っているので、納得しました。

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